第8話 闖入者
「じゃあここで」
「はい。ありがとうございます。とても楽しかったです」
出てきたのと同じように、空を飛び窓から館に入ったリズとアルデウスは、彼が泊まっている部屋で別れる。
部屋を出たリズはまず父であるザガを探した。
館を留守にした時間は長くないが、心配性な父のことだ、もしかしたら自分のことを探しているかもしれない。
そう思った彼女は父の私室を訪れたのだが、そこにはだれもいなかった。
「お父さまはどこにいるのでしょうか?」
リズはしばらく悩んだ後、魔眼の力を頼ることにする。
彼女の持つ魔眼『
その力を使えば魔力を視て相手の力量を判別するだけでなく、離れた所にいる人を見つけることも出来るのだ。リズは心視の力は制御できないが、この力だけはオンオフを切り替えることが出来た。
「えーと……お父さんは……いた」
父親の魔力の形は覚えている。見つけるのに時間はかからなかった。
場所は大広間、周りには多数の魔力反応がある。見知った形もあるので使用人だろうとリズは結論づける。
「そういえばここに来るまで誰にも会いませんでした。皆さん大広間で何をしているのでしょうか?」
疑問に思いながらリズは大広間に向かう。
不自然なくらい静まり返った館を駆けて大広間にたどり着いた彼女は、躊躇わず扉を開ける。
「お父さま、ここにいら……きゃあっ!!」
顔を青くし、リズは叫ぶ。
彼女の目の前に広がっていたのはそれほどまでに凄惨な光景だった。
「お父さま! 一体どうされたのですか!?」
彼女は駆け寄る。
血に
「リズ……くるな……」
彼女の父親、ザガはリズを引き止めるが、彼女はそれを聞き入れず父親の側まで来てしまう。
近くで見た父の体は至る所が傷ついており、それを見たリズは悲しみ瞳が潤む。
「酷い傷……いったい何でこんなことに……」
気づけば周りには使用人たちも傷だらけで横たわっている。
いづれも鋭い剣で斬られたような傷だ。相手は剣士だったのだろうか。
「お父さま! 早く手当を!」
「いいから下がるんだリズ、あいつらが……」
「あいつら?」
それは誰ですか、とリズが尋ねる前にその人物たちは現れる。
二人組の男、腰には剣を携えており、服には返り血が付いている。間違いなくこの事件の犯人だ。
「お、なんかうるさいと思ったらガキが来てんじゃん。殺す?」
「まあ待てコウキ。あの金色の瞳、あれが魔眼の持ち主だ」
「マジで? ラッキー!」
そう言って二人の男は下卑た笑みを浮かべリズに近づく。
彼らから感じるのは身も凍りつくほどの悪意。それを一身に受けたリズは腰が抜けその場に座り込んでしまう。
「あ、あ……」
彼女の魔眼は人の感情を視ることが出来る。当然二人の悪意も可視化されてしまい、リズはそれを視てしまった。その恐怖は普通の人よりもずっと大きい。
「なんか知らんけど動かなくなったな。ソウタの顔が怖いからじゃねえか?」
「ふん、
そう言ってソウタと呼ばれた銀髪の勇者は聖剣を抜き放ち、その切っ先をリズに向ける。
「小娘、貴様の魔眼は貰い受ける」
「……させ、るか」
娘の危機に父親が立ち上がる。
動くたびに傷口から血が吹き出すが気にしない。軋む肉体を鍛えた筋肉で支え、彼は目の前の敵を睨みつける。
「どけよおっさん。俺たちが用があるのはそのガキなんだからさ」
「娘の危機に立ち上がらぬ父はいない。貴様らがどんなに強かろうと、私が戦いを止める理由にはならない! たとえこの身が何度引き裂かれようと、細胞の一片でも残っている限り娘は守るッ!」
ザガは右手に持った大斧を振りかざし、思い切り叩きつける。
満身創痍の身とは思えないほどの強烈な一撃。くらえばひとたまりもないだろう。しかし、
「バリアー! ってな。小学生の頃やらなかった? こういうの。あ、こっちの世界には小学校がないか」
ザガの斧は短髪の勇者、コウキが作った球状の
「ぬう! なんだこの防御魔法は!? 硬すぎる!」
「ぷぷっ! これってチートですか〜? そんなしょぼい攻撃じゃ俺の
そう言ってコウキはバリアの中からザガを斬りつける。
腹部を斬られたザガは一旦後退して体勢を立て直そうとするが、そんな彼をもう一人の勇者、ソウタが迫る。
「逃げんなよ
ソウタの聖剣による斬撃がザガを襲う。
ザガは必死に斧でその攻撃を凌ごうとするが、ソウタの攻撃はガードの合間を縫うように動きザガの体を斬りつける。
「がっ……!」
聖剣の攻撃は魔族の体に異常に効く。
いくら頑強な体を持つザガでも耐え切ることはできず、その場に膝をついてしまう。
「私の
「ま、そんな事しなくても俺の『
二人の勇者がザガの息の根を止めんと迫る。
一方その頃アルデウスは――――
「……ん? なんか変な魔力を感じるな」
一人戦いの予兆を感じ取っていた。
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