第7話 初めてのデート

 グラズル滞在二日目。

 俺は暇をしていた。ガーランは朝からどっか行ってしまったし、部屋には面白い物など一つもない。仕方なく術式の見直しやグラムナイフの手入れなどをして時間を潰していた。


「暇だなあ」

「だったら外に出りゃいいじゃねえか」

「勝手に出たらガーランに叱られるだろうけど、そうしようかな」


 グラムの囁きに耳を貸した俺は、外に出る決心をする。

 扉から堂々と出るのは目立つ、ここは窓から颯爽と抜け出して街に繰り出すとしよう。すぐに戻ってくればガーランに気づかれずに行って帰ってこれるかもしれない。


「まあお前がすぐ帰るわけがないけどな。どうせ色々見て回ってる内に夜になるだろ」

「人は好奇心の奴隷なんだよグラム。それを止めることは誰にもでき……って、ん?」


 窓を開けようとした瞬間、部屋の扉がノックされる。

 急いで外行き用の外套を脱ぎ捨てた俺はノックした主を部屋に招き入れる。


「どうぞ」

「し、失礼しまひゅ!」


 見事に噛みながら扉を開けたのは領主の娘、リズベット・ヴァンホーテンだった。

 彼女は警戒するように周りをキョロキョロ見ながら部屋に入ってくる。


「へ、へへ。お父さんたちに黙って来ちゃいました」


 大人しいお嬢さんかと思ってたけど、お転婆な面もあるみたいだ。

 何しに来たのかは知らないけど、暇は潰せそうだな。


「どうしたんだリズ、わざわざ人目を盗んでまで俺に用か?」

「えーと……用ってわけじゃないんですけど、その……」


 リズは顔を赤くしてモジモジしてる。

 何を照れてるんだ? うーむ、小さい女の子の考えは分からない。

 遊びたいのかな?


「ちょうど暇してて街に行こうとしてたんだけど、リズも行くか?」

「え? 街に? うーん……………………い、いきます!」


 リズはかなり長いこと悩んだけど俺の誘いに乗る。

 俺としても街に詳しい人がいると助かる。


「あ、でも、街の人が私に気づいたら怖がるかも……」

「だったら俺の外套を貸すよ。フードを被れば街の人も気付かないでしょ」


 そう言って俺の外套を彼女に着させる。

 少しサイズがオーバーしてるけど、不自然というほどじゃない。特徴的な金髪と金色の眼が隠れれば普通の女の子にしか見えない。


「これでよし、じゃあ行くか」

「え、何で窓を開け……きゃあ!」


 彼女を抱え上げ、窓から外に跳ぶ。突然のことにリズは俺の体をぎゅっと掴み悲鳴をあげる。事前に説明しておけばよかったな。


飛行フライ!」


 空中で飛行魔法を使い、街の方に滑空する。

 するとリズは落ち着きを取り戻し目の前の光景に感動する。


「す、すごいです! 空を飛ぶなんて初めてっ!」

「気に入って貰えて良かった。速度を上げるぞ!」

「きゃあ!?」


 調子に乗って速度を上げた俺は、着地後にリズに怒られるのだった。


◇ ◇ ◇


 俺とリズはグラズルの街中を楽しく見て回った。

 平和で活気がある、いい街だ。食べ物も美味しいし今度魔王おやの誰かを連れて来てあげたいものだ。


「アル様、次はあそこに行きませんか?」

「ん? あれは……雑貨屋か? 別にいいぞ」


 俺の興味がありそうな主に素材や魔道具屋などは既にあらかた回った。リズの行きたい所に行ってみるのもいいだろう。

 ちなみにお金をほとんど持っていないので気になる物を買うことは出来なかった。換金できそうな物はグラムナイフくらいしかないけど流石にこれは売れない。


「わあ、かわいいなあ……」


 露店に並べられたアクセサリーを見て、リズは顔を輝かせる。

 どれも高価な物じゃないけど、デザインは良い。小さな女の子には輝いて見えるんだろうな。


「あんまりこういう所は来ないのか?」

「はい、お父さまはいつも忙しそうにしていますので、外に出ることはあまり……」


 あの父親なら頼めば喜んで連れて来てくれるだろうに。遠慮してんだな。


「せっかくなんだからどれか買ったらどうだ?」

「残念ですが、今は手持ちがなくて……」


 まあ急に俺が連れ出したからお金なんて持ってないか。

 色々案内してくれたお礼に買ってあげたいが俺も金がないしな……ん?


「あ」


 ある物を持っていることを思い出した俺はリズに尋ねる。


「どれが一番気になってるんだ?」

「へ? そうですね……この指輪、でしょうか。とてもキラキラしてて綺麗です」


 リズが指差したのは透き通った青い石がついた指輪だ。

 価格は560iz$イズベルドル。子どもには少し高い値段だな。だがまあ……これなら買えるだろう。


「おっちゃん、その指輪これと交換してくれない?」

「ん? なんだその石ころは」


 店主のおっちゃんに小さな黒い石を手渡す。

 ルーペのような物でそれを見た店主のおっちゃんは突然「おわっ!!」と大声を出す。どうやら気がついたみたいだな。


「坊主! こりゃ魔鉄鉱じゃねえか! なんでこんな希少鉱物をお前みたいな小僧が!?」

「へへ、それは内緒」


 ビキニール山脈でロックビーストを倒した後、俺は魔鉄鉱をいくつか見つけた。それらは部屋に大事に保管していたんだけど、ポケットに小さな欠片が残っていた。

 兵器転用出来るほど大きくはないけど、今の時代魔鉄鉱は欠片でも希少だ。


「それとこの指輪交換して貰ってもいい?」

「あ、ああ! そんな物でよけりゃ交換してやる! なんなら他のも持っていって構わないぞ!」

「やった。ありがとね」


 遠慮なくアクセサリーを何点か貰う。シルヴィアやカーミラに上げたら喜ぶだろう。

 ネムもいてくれたらいいけど、もう出発しちゃってるかな。


「はい、リズにはこれあげる」


 忘れずリズに指輪を差し出す。

 彼女は驚いたように俺の顔を見る。


「え? い、いいんですか……?」

「ああ、世話になったお礼だから受け取ってくれ」


 そう言って彼女の指に嵌めてあげる。

 うん、よく似合ってるな。


「こんな嬉しい贈り物、初めてです……ありがとうございます」


 リズはそう言ってかわいい笑顔を浮かべながら俺に頭を下げる。

 うん、喜んでくれたみたいで何よりだ。


「それじゃそろそろ館に戻るか。リズの父さんも探してるかもしれないしな」

「はい!」


 リズは笑顔で頷き、俺について来る。


 もう最初みたいにおどおどした彼女はそこにはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る