第4話 魔眼の娘
その後、俺と彼女は色んなことを話して仲良くなった。
最初こそおどおどしてたが、打ち解けてくると彼女は明るい普通の女の子だった。なぜそんな彼女が内向的になってしまったかというと、それはやはり『魔眼』に理由があった。
「私の『魔眼』は人の考えとか気持ちが目で見えるんです。だから街の人たちは私の事を気味悪く思ってるんです。本当はみんなと仲良くなりたいんですけど……」
「なるほど、そんなことがあったのか」
魔眼とは、魔法効果を持った特殊な瞳だ。
その効果は千差万別で、ひとつひとつが違った効果を持っている。そしてそのどれもが珍しい特異な能力だ。
人の気持ちを目で見ることが出来るなんて聞いたことがない。リズの能力は間違いなく特異なものだ。気味が悪い? 冗談じゃない。こんなに興味をそそられるものを避けるだなんてとんでもない!
「なあリズ! 俺はどう見えるんだ? 見てくれよ!」
「み、見てほしいなんて初めて言われました。本当に私の瞳が怖くないんですね」
「当たり前だ。こんなに綺麗な瞳を怖がる方がおかしい」
「はう」
リズは顔を真っ赤にさせて俯く。
いったいどうしたんだろうか。さっき話してる時もちょくちょくしてたけど……もしかして魔眼の副作用か? だとしたら心配だ。
「大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい! 大丈夫でひゅ!」
噛んだ。
確実に大丈夫ではなさそうだが、元気はありそうなのでまあ良しとしよう。
「ええと、アルくんの事を見ればいいんですね。それでは失礼して……」
リズは俺のことを金色に輝く瞳で見つめる。
すると彼女の瞳にどんどん魔力が集まり、瞳の奥がきらきらと光り出す。おお、こりゃ綺麗だ。
いいなあ魔眼。俺の瞳も魔眼にならないかな。
「アルくんの今の気持ちは『面白い、興味深い、楽しい』ですか? 楽しそうな色が体中から出てます」
「へえ、確かにその通りだ。魔眼ってやっぱすごいなあ」
「……でもなんで今楽しいですか? 私と話してても面白くなんかないですよね?」
いじけたようにリズは言う。
ふむ。今まで他人に避けられていたから自信が無いんだろうな。
その点俺はたくさんの人に過剰に愛されてきたおかげで自己肯定力が上がっている。元の世界で生きてた頃とは別人だ。
だからこの子は俺がたっぷり褒めてあげよう。人にやられて嬉しかったことは他の人にもやってあげないとな。
「俺はリズと話すの楽しいぞ。リズは頭がいいから話すこと理解してくれるしな」
「そ、そんな! アルくんの方こそ魔法に詳しくてすごいです! 私なんて全然凄くないですよ!」
「その凄い俺が言ってんだからリズは凄いんだよ。魔眼は扱うのが難しいって聞くけど、暴走させずに使えてるみたいだしな」
「それは、もし暴走しちゃったら他の人を困らせちゃうから頑張って練習しただけで……」
「そう、そこだよ。人のために頑張るってのは中々出来ることじゃない。俺なんか自分のことばっかさ」
「でも……」
その後もリズはでもでも攻撃を繰り返すが、俺はそれら全てに対応し褒めちぎった。
褒めちぎっては投げをしばらく繰り返し、なんだか楽しくなってきた頃、急にリズの瞳に大粒の涙が浮かんだ。
ええ!? 俺なんか地雷踏んだ!?
「お、おい! 大丈夫か?」
「はい……大丈夫、です」
彼女は目を服の袖で拭うと、最初とは打って変わって凛々しい顔つきで俺を見る。
なんかよく分からないけど吹っ切れたような表情だ。俺のどれかの言葉が刺さったのだろうか。
「ありがとうございます。アルく……いえ、アル様のおかげで救われました」
「そんな大したことしてないって。ていうか歳が近いんだから『様』で呼ぶのはやめにしない?」
そう提案したんだけどリズは首を縦には振らなかった。意外と強情なお嬢様だこと……。
そんな事を思ってると部屋の扉が開き、ガーランが姿を見せる。
「アル坊、話は終わったぜ。ザガの奴が飯用意してくれてるみたいだから行こうぜ」
「うん、分かった」
ちょうどお腹も空いていた頃だ。
俺は部屋を出てザガのもとに行く。すると俺の事を見たザガは驚き目を丸くした。
「おやおやリズベット、短い間に随分仲良くなったじゃないか」
リズは俺の後ろにぴったりくっ付いて歩いていた。まるでさっきまでザガの後ろに隠れていたみたいに。
どうやら思ってたより懐かれてしまったみたいだな。
「ほら、お父さんのところにおいで」
「……嫌です」
「へ?」
娘の拒否に、ザガは呆然とした顔をする。
今までのやりとりを見るに、リズに拒否されたことなんてなかったんだろうな。申し訳ないことをした。
「どうしたんだいリズベット。今までそんなこと言わなかったじゃないか! ほら、お父さんが抱っこしてあげるから」
「……私はアル様と一緒がいいんです。お父さんは邪魔しないで下さい!」
「じゃ……ま……?」
娘に強く拒絶されたザガはその場に膝をつき、がっくりと
しかしリズは気にする事なく俺の服の裾をぎゅっとつかんでいる。
そんな俺たちのやりとりを見て、ガーランは楽しそうに笑っていた。
「はは、アル坊も隅に置けねえな。『英雄、色を好む』っていうしな、こら大物になるぞ」
「茶化すなよガーラン。俺はそんなのじゃないって」
「くく。せいぜい後ろから刺されないように気をつけるんだな」
ぞくり、と背中に鳥肌が立つ。
振り返るとそこには俺をジッと見つめるリズの姿。大丈夫……だよな?
一抹の不安を抱えながら、俺は砂となった男の用意したご飯にありつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます