第5話 剣王の過去

 その夜、俺とガーランは館の一室に泊まらせて貰うことになった。

 頂いたご飯は美味しかったけど、リズの父さんのザガが食事中俺のことを睨みつけて来て非常に気まずかった。

 よほど娘が大事なんだろうな。心配しなくてもあんな子どもは恋愛対象外だ。

 大きくなったら……分からないけど。


「アル坊があのと結婚したら、俺とザガが親戚になるのか。面白くなってきたな」

「やめてよガーラン。俺はそんなつもりないんだから」

「まあそんなに拗ねるな。俺は子どもの成長が嬉しいだけなんだから」


 そう言ってガーランは血のように赤い葡萄酒をあおる。

 スケルトンであるガーランに内臓のようなものはないはずなんだけど、どうしているんだろうか? お腹も空かないし喉も乾かないはずなんだけどな。


「そういえばガーランに家族っていたの? 人間だった時に」


 何気なく話を振ると、ガーランの動きが止まる。

 ……もしかして聞いてはいけない事を聞いてしまったか?


「……あまり面白い話じゃねえぞ?」


 ワイングラスをテーブルに置き、ガーランはいつになく真面目な面持ちになる。

 骸骨でも表情は意外と分かるんだなと変に感心する。


「俺も生きてる時は妻がいた。子どもの時から長い付き合いの、いわゆる幼馴染みってやつだな」


 ほう、ガーランにそんなものがいたとは。


「妻は妊娠していた。俺は生まれてくる子の為にも武勲を立てようと、王国の騎士として戦っていたが……ある日、妻がいた村で戦闘が起こって彼女は帰らぬ人となった。もちろん腹の子も一緒にな」

「そう、だったんだ」


 ガーランの話によると、王都は戦場になる危険があると実家の田舎村に帰省させていたらしい。

 その村は魔族領の国境から離れてるから安全だと思ったらしいが、魔族の残党をミズガリア王国が執拗に追い回した結果、運悪くその村に行き着いてしまったようだ。


「俺は恨みを果たすべく、魔族を大量に殺した。だけどその内気づいたんだ、俺も同じだった、俺もこの手で家族がいる人をたくさん殺してるってことにな」

「ガーラン……」

「上官に『これ以上戦えない』と言ったらその場で仲間に襲われた。魔族に洗脳されたと思ったんだろうな。俺はその場でかつての仲間を二十人ほど斬り殺し、そして俺も死んだ。だが運がいいのか悪いのか骸骨戦士スケルトンとして生まれ変わったんだ」


 スケルトンになる条件は複雑で、なろうとしてなれるものじゃない。

 魔力濃度の濃い土地で死ぬ、死んだ時の無念が強い、墓地などの霊がたくさんいる所で死ぬ、などなりやすい条件があるけど全て満たしても確実になれるわけじゃないんだ。


 きっとガーランは死んだ時の思いが強すぎたんだろう。


「スケルトンになってからは、俺は奪うためでなく守るためだけに戦うと決めた。他の魔王連中には悪いが、人間領に侵攻作戦をするってなっても俺は協力しないと決めている」


 人に歴史あり、と言うけどガーランのそれもかなり濃いものだった。

 他の魔王おやたちもきっと重いものを抱えているんだろうな。少しでも軽くしてあげられるといいんだけれど。


「別にアル坊を亡くした子の代わりにしてるつもりはねえが、やっぱどこか重ねてる部分はあるんだと思う。もし息子が生まれてたらこんな感じだったのか……ってな。良くないことだってなのは分かってるんだが」

「別にそれくらいいいよ。俺だってみんなを本当の家族のように思ってるんだから」


 これは俺の本心だ。

 確かに誰とも血は繋がってないけど、十年という歳月は本当の家族となるのに十分な時間だった。


「……すまねえな。その代わりと言っちゃなんだが、アル坊のことは俺が守る。救えなかったあの子の分もな」


 そう言ってガーランは口を閉じる。

 俺もこれ以上言うことがなくなったので、布団に入り寝ることにした。


「…………」


 一人物思いにふけながら酒を飲む父の姿を見ながら、俺は眠りに落ちていくのだった……。

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