第20話 入浴
ガーランと約束を取り付けた日の夜。
明日の用意を済ませた俺は大浴場へと向かっていた。
自分の部屋でもシャワーを浴びることは出来るけど、やっぱり大浴場に入りたくなってしまう。多分これは体に残った日本人の血だな。
ちなみに俺の使う大浴場は魔王など城でも偉い人しか使えない特別な浴場なので、混んでることはない。魔王の息子特権ってやつだな。
レオナルドとの戦いで汚れてることだし、早く済ませ……ん?
「げ」
大浴場に向かう途中である人物と出くわし、俺は思わずそう声に出てしまう。
なぜならその人物は俺のことをかなり怒った目で見ているからだ。
「ア〜ル〜さ〜ま〜!? 聞きましたよ! 明日から出かけるそうじゃないですか! 私聞いてませんよ!!!!!!」
大きな声でそう言うのは、俺の専属メイドであるシルヴィアだ。
……そういえばシルヴィアに言うのを忘れてたな。
「悪かったって。シルヴィアも連れてくから」
「私は! 明日! 行けないんです!」
「……そうなんだ」
だからこんなに怒っていたのか。折角外に出れる機会だったのに悪いことをしたな。
シルヴィアは俺につきっきりだから他の街に買い物も行けない。だから彼女にとって久しぶりの他の街だったはず。そりゃショックだよな。
「うう〜〜!! 私もアル様と一緒にお出かけしたかったのにっっ!!」
「そっちかい」
相変わらず愛が重い。
まあ嬉しくないわけじゃないけど、少しは子離れして欲しくはある。せっかくこんなに美人なんだから俺から離れても上手くやってけ……ん? なんか胸がモヤるな。まあいっか。
「悪かったって。今度埋め合わせするから機嫌直してよ」
「じゃあ今してください」
「今? なにを?」
「ふふ、そんなの決まってるじゃないですか♪」
笑みを浮かべるシルヴィアに引きずられ、俺はある場所に連行されるのだった。
◇ ◇ ◇
「あったかいですね♪」
「そうだな……」
笑顔でこちらを見るシルヴィアから、俺は目を逸らす。
うう、目のやり場に困る……。
「どうしたんですかアル様? もしかして照れてらっしゃるんですか?」
「そりゃそうなるだろ。この歳で
現在俺たちがいるのは、女性用の大浴場だ。
魔王クラスしか使えない浴場なので、他に利用してる人がいないとはいえ……恥ずかしい。なんでこの歳になってシルヴィアと一緒に風呂に入らなくちゃいけないんだ。
「気持ちいいですね♪」
「……そーだな」
普段はなんてことないんだけど、流石に裸となると目のやり場に困る。
シルヴィアは元いた世界では見たことないほど綺麗だからな……。もし俺に性欲が芽生えてたら理性がぶっ壊れていただろう。子どもの体に感謝しなければ。
「ねえアル様? 離れてないでもっと近くに来ませんか?」
「うるさい」
「ひどい!?」
わざとらしくショックを受けるシルヴィア。
くそ、遊びやがって。
そんな感じで浴場で疲れを癒していると、突然浴場の扉が開き、ある人物が入ってくる。
「おや、先客がいたとは」
その言葉に振り向き、入ってきた人を確認する。
そこにいたのは……美しいと形容するのが陳腐に感じるほどの絶世の美女だった。すらりと引き締まった肢体と大きく綺麗な形をした胸。黄金のように煌めく
ルビーの様に赤く輝く瞳で俺を捕捉したその人は、妖艶な唇で笑みを浮かべる。
「誰かと思えばアルではないか、こんな所で会えるとは重畳。……お邪魔虫がいなければ尚良かったのだけどな」
「誰がお邪魔虫ですか」
頬を膨らませ、シルヴィアは抗議する。
しかしその人はそれを気にせず湯に入り、俺の隣に腰掛ける。
「久しぶりだな、アル。元気にしてたか?」
「うん、カーミラこそ元気だった?」
「ふふ、当然よ。昨日も勇者を三人ほど血祭りに上げてやったわ」
そう言って笑うこの人物は魔王の一人で『夜王』の異名を持つ『カーミラ・ド・レファニュ』だ。
カーミラは吸血鬼一族の長、
俺が転生してすぐ、デス爺に解剖されそうになった時は一番に助けてくれた。カーミラがいなかったら俺の命はあそこで終わってたかもな。
ちなみにシルヴィアとは古い仲らしい。どんな仲なのかは教えてくれないけど。
「ほれ、アル、もっとこっちに来い。そんなに照れんでもよいぞ」
「いや、ちょ!」
カーミラに引っ張られ、無理やり膝上に乗せられる。
うう、背中に大きくてやわらかいものが当たってる……。性が目覚めてしまうぞこんなの……。
「カーミラ! ずる、いえ、猥褻ですよそんなの!」
「よいではないかシルヴィア。お主はいつもこの子と一緒にいるんだから我慢せい」
「ぐぬぬぬ……」
シルヴィアはカーミラの紹介で魔王城に勤めることになった。
その恩があるからかあまり強くは出られないみたいだ。
「ねえ、やっぱりこういうの良くないと思うんだけど。俺ももう十歳になったんだし……」
「なに言ってるんだ。魔王の息子たるもの、女の一人や二人、
「伴侶、ねえ……」
正直自分がそんなものを持つ未来が想像出来ない。
元の世界にいた時も彼女どころか中のいい女友達すらいなかったからなあ……。
「まあ、どうしても見つからなかったら儂の
そう言ってカーミラは舌をぺろりと出し、抱きしめてくる。
こ、これは……刺激が強すぎる!
「ちょっと! なに人の主人を誘惑してるんですか!」
「かかか、お主も自分の立場を守ることに固執してたら足元を掬われるぞ?」
「きー!」
「のぼぜてきた……」
こうして騒がしく、俺の入浴タイムは過ぎていくのだった。
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