第16話 けむくじゃらの父
翌日。
俺は自室でうんうん頭を捻っていた。
「どうしたんだよ。とっとと勇者をとっ捕まえに行かないのか?」
「そんな簡単な話じゃないんだよグラム。城塞都市グラズルはこの前行ったズブト村よりも遠い。とても日帰り出来るような距離じゃないんだ。こっそり行ったらすぐバレちまう」
「まあ確かにメイドの嬢ちゃんが気づいたら地獄の底まで連れ戻しに来そうだな……」
グラムの刀身がブルブルと震える。
分かるぜ、その気持ちは……。
その後も俺は色々考え……一つの結論を出した。
「よし。悩んでても仕方ないし少し出歩くか」
「そうか、じゃあな」
「お前も行くに決まってるだろ?」
グラムナイフを腰に装備し、俺は部屋を出る。
クソ! 小さいせいで携帯性が増しちまった! などとグラムは喚くが、それを俺は無視するのだった。
◇ ◇ ◇
魔王城は広く、自然豊かな中庭なども存在する。
俺は外に出る事ができないので、魔法の研究が詰まった時なんかはよく中庭で昼寝してリフレッシュしてる。
今日もそうしようと思ったのだが……
「お! 誰かと思えば我が息子アルデウスではないか!」
「へ?」
誰だと振り返る暇もなく、俺は突然抱き抱えらる。
痛い痛い! なんだこの馬鹿力は!?
「ちょ、誰……って、レオナルドじゃん! 痛いから離してよ!」
「ガッハッハ! 照れるな我が息子よ! 久々の再会を喜び合おうではないか!」
「ちょ、つよ、骨折れるって!」
豪快に笑いながら俺を抱きしめるこの人物は、魔王の一人『獅子王レオナルド』だ。
獅子王の名の通り獅子の獣人であり、全身をもふもふした毛に覆われていて、顔も人とライオンを足して割った感じをしている。
獣人の特徴として魔法は苦手だけど身体能力が高いことが挙げられるが、レオナルドはそんな獣人の中でも特に身体能力が抜きん出て高いらしい。
現に俺はレオナルドの
万力かよこいつの腕は!
「いいから、離せ……!」
「むう、つれないな。反抗期か?」
やっとレオナルドは俺を解放してくれる。
ぜえ、ぜえ、死ぬかと思ったぜ……。
「せっかくの再会だというのに反応が薄くて我輩は寂しいぞ、息子よ」
「あんな再会じゃなきゃ、こっちももうちょっと喜べたんだけどなあ!」
二年ぶりの再会なのに情緒もへったくれもない。
まあ、ガサツなレオナルドらしくはあるが。
「にしてもレオナルドとネムが両方帰ってきてるなんて珍しいな。何かあったの?」
「最近勇者たちの攻撃が緩くなってな。まあ一時的なものだとは思うが、今の機会に一度魔王たちで集まって会議することなったのだ。我輩も久々に息子に会いたかったしな」
「なるほどね。じゃあノブヒデも城に来てるの?」
「戦王の奴なら防衛基地に残っているぞ。一人は魔王がいないと流石に危険だからな」
「そっか。会いたかったなあ」
「まあよいではないか、我輩に会えたのだからな! どれ息子よ、久々に手合わせしようじゃないか。どれだけ強くなったか我輩が見てやろう!」
そう言ってレオナルドは中庭で四股を踏む。
すると地面にビキビキ! と亀裂が入る。魔法を使わず素の筋力でこれとは相変わらずの馬鹿力だ。
「やだよ面倒臭い……って前なら言ってたかもしれないけど、ちょうどいい。自分がどれだけ強くなれたのか知るいい機会だからやるとするか」
「おっ、乗り気だな。父さんは嬉しいぞ」
ライオンの顔で笑みを浮かべたレオナルドは拳を構える。
二年前、最後に手合わせした時は全く歯が立たなかったけど……今の俺はあの頃よりずっと強くなってる。
その成果を見せるときだ。
「行くぞグラム。しっかり働けよ」
「ええ? 俺もやんのか!?」
グラムナイフを握った俺はけむくじゃらの父に突進するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます