第14話 友との別れ
シルヴィアが目を覚ました日の昼過ぎ。
宿で飯を取った俺たちは少し早いが王都に帰る事にした。
目を覚ましたばかりなんだしもう少しゆっくりしたらと言ったのだが、シルヴィアは「大丈夫です、もう走れます」とそれを断った。あれだけボロボロになっていたというのに頑丈な奴だ。
エルフとはみんなこうなんだろうか?
そして村を出る前に、シルヴィアを前に待たせて、俺は一人である所にやって来ていた。
「よっ、疲れは取れたか?」
「アル!」
俺に気づいたビスケは嬉しそうな顔で俺のもとへと近づいてくる。子犬みたいな奴だ。
見た目はゴブリンだけど。
「僕は大丈夫だけど、シルヴィアさんは大丈夫なの?」
「ああ、ピンピンしてるぞ」
「そうなんだ。それは良かった」
「ところで、何を作ってたんだ? ゆっくりしてればいいのに」
さっきまで作業をしてたのか、ビスケの体は煤だらけだった。昨日あんだけ体を動かしたのに何をそんなに急いでいるんだ?
「はは、これを作ってたんだ」
そう言って俺に見せて来たのは剣ではなく、鞘だった。
剣を入れるにしては小さい、ナイフ用か?
「アルの魔剣って鞘ないでしょ?持ち運ぶのも大変そうだし作ったんだ」
「え、俺にくれるのか?」
「うん。その魔剣は僕も製作者の一人だからね。他の人の作った鞘に入れられるなんて嫌だったんだ」
ビスケから鞘を貰い、布で刀身を包んでいたグラムナイフを収納する。
おお……ピッタリだ。現物無しでここまでの物を作るなんて。やっぱりビスケの腕は確かだ。
「サンキューな。ありがたく使わせて貰うぞ」
「うん。僕の方こそそんなすごい剣に携われてお礼を言いたいぐらいだよ」
ビスケはそう言って嬉しそうに笑うが、笑い終わった後に寂しそうな表情をする。
「……もう、行くの?」
「ああ。もう少しゆっくりしてもいいんだけど、あんまり遅れると心配かけてしまうからな」
「そうだよね、アルには待ってくれてる人がいるんだから帰った方がいいよ」
ビスケには家族も親しい友人もいない。俺が帰ればまた一人ぼっちになってしまうだろう。
だったら……
「なあビスケ、良かったら一緒に……」
「そこから先は言わないで、僕は大丈夫だから」
「へ?」
先回りして阻止されてしまった。これは予想外の展開だ。
「アルが言おうとしてくれたことは嬉しい。僕だって本当はついて行きたい。でも……今ついて行っても、アルの役には立たないと思うんだ。だからもっともっと鍛治の勉強して、『これならアルの役に立てる!』そう思えるようになったら、その時また誘って欲しいんだ」
そう語るビスケの目は
どうやら昨日の一件はこいつを変える大きなキッカケになったみたいだな。
「……なるほどな、ビスケのくせにかっこつけやがって。そこまで言われたら引くしかないな」
「へへ、ありがとう。でも僕の力が必要になったらいつでも呼んでよ、役に立つかは分からないけど、力になるから」
「生意気言いやがって。でも……頼りにしてるぞ」
俺は辺境の村で出会った友人と握手を交わし、別れる。
思わぬいい出会いだった。やっぱり城に閉じこもってばかりじゃ駄目だな。そう思いながら俺は帰路につくのだった。
◇ ◇ ◇
「き、たーく!」
ズブト村を出た日の夜、無事魔王城に帰宅した俺はベッドに飛び込む。うーん、やっぱり自室のベッドが一番だ。コカトリスの羽を使ってる一級品の布団なだけある。
「ふああ、流石に眠い……けど、あれのチェックだけしておこうかな」
腰の後ろに装備した鞘からグラムナイフを抜く。
そしてその刀身に刻んでいた術式を発動する。
「術式発動、
刀身が光り、大きな岩の塊が部屋の中に突然現れる。
おお、ちゃんと発動した。
「保存状態もよさそうだな。いやあ良かった良かった」
岩を触るとまだほんのり温かい。魔力が残っている証拠だ。
ふふ、これはいい素材になるぞ。
そうほくそ笑んでいるとナイフからグラムが現れ、呆れたように呟く。
「まさかその歳で時空間魔術を使えるとはな……いい加減驚くのにも飽きて来たぜ。それにしても『ロックビーストの甲殻』なんて拾ってきてどうするつもりなんだ?」
「魔獣の素材の可能性は無限大だ。それにロックビーストの体に流れる魔法を解析できれば術式に応用出来るかもしれない。ふふ、溶岩のブレスとかもその内吐けるようになるかもな」
「いよいよ人外じみて来たな……」
俺はペタペタと甲殻を触り研究を始める。
そうしてしばらく至福の時間を過ごしていると、急にカチャリと扉が開くような音がする。
バッと振り返り扉を見るが、開いていない。なぜなら開いたのは扉ではなく『窓』だったからだ。
「……久しぶりに帰ってみれば、何をやってるんですか貴方は」
窓から部屋に入ってきた人物は俺を見て、呆れたような声を出す。
宙をふよふよと浮き、俺に近づいてくるその人物の見た目は、俺と同い年くらいの少女。黒いローブととんがり帽子を着ている彼女は、魔女見習いに見えるけどその正体は『魔王国最強の魔導士』だ。
「ネム! 帰ってきてんだ!」
俺がそう言うと、ネムはダウナー気味な表情を僅かにほころばせる。
「ただいまアルデウス。いい子にしていましたか?」
俺の魔法の師匠にして魔王の一人、ネム・グリフィスは青く長い髪を揺らしながらそう俺に笑いかけるのだった。
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