第7話 ゴブリンの秘密
「よし、行くか!」
翌日、朝早く宿を出てゴブリンのビスケと合流した俺とシルヴィアは、目的地のビキニール山脈に向けて出発した。
「ズブト村周辺は比較的安全ですけど、山の近くには危険な魔獣が現れることも多いです。気をつけてください」
ビスケはそう忠告してくれるけど、俺たちは気にせずガンガン進んだ。
野宿はしたくないからとっとと採掘して村に帰りたいのだ。
「ひい、ひい、ちょっと……待って……」
歩いて一時間もすると、ビスケは息を切らし始める。
体力のない奴だな。ま、俺はこっそり
「どうしたビスケ、もう疲れたのか?」
「いやいや……まだまだ……いけますよ……」
そう言いながらべちゃりと地面に突っ伏してしまう。こりゃ本格的にダメそうだ。
「ちょっと早いけど休憩するか」
「かしこまりました。そこの木陰にビスケさんを運びますね」
「うん、任せた」
シルヴィアに介抱を任せ、俺は革袋に入った水を飲む。
うん、おいしい。水の味はどっちの世界だろうと変わらないな。
「おーいビスケ、大丈夫か?」
木陰に横になるビスケのもとに近づく。
休んだことで少し落ち着いたのか顔色はさっきより良くなってる。
「ゴブリンって力強いイメージがあったけど、体力は意外とないんだな」
前に本で『ゴブリンは小さい体ながらも怪力の持ち主』と見たことがある。
事実ビスケが叩く金槌は力強くて、その小さな体のどこにそれだけの筋力が隠されてるのかと思ったものだ。
「ゴブリンは腕力だけはあるんですけど、別に体が強いわけじゃないんですよ。怪我も良くするし足も速くないです」
「へえ、変わってるね」
力の強い種族……例えば龍族や鬼族などは身体能力が全体的に高い。
腕力だけで他はダメというのはレアケースだ。面白い。
「暇だしちょっと調べてみよっか。ほら、腕に力を込めて見て」
「こ、こうですか?」
ビスケは座った状態で右腕に力こぶを作る。
ううん……あまり筋肉があるようには見えない。マジでこの体のどこにあんな力があるんだ?
「ちょっと触るぞ」
「え、あ、はい」
ビスケの腕を触る。
少し硬いが、それだけだ。中がめちゃくちゃ詰まってる感じはしない。後の可能性は……ん?
「ビスケ、ちょっと力を入れたり抜いたりしてくれ」
「へ? こ、こうですか?」
俺は神経を集中させる。
なるほどなるほど……こりゃ凄い。まさかこんなカラクリがあったとはな。
「分かったぞビスケ。ゴブリンの怪力の正体は『魔法』だ」
「ま、魔法!?」
ビスケは驚いたように大きな声を出す。
隣にいるシルヴィアもどう言うことですかと言いたげに首を傾げている。
ま、いきなり魔法だと言われても分からないよな、説明してやるか。
「どういうワケかは分からないが、お前の体には独自の魔法回路が仕込まれてる。力を入れるとそこに魔力が流れて自動で筋力が増加する魔法が発動するんだ。だからゴブリンは筋力だけ高いんだ」
「は、はええ。よく分からないけど、この力は魔法のものなんだ。でも何でゴブリンにそんな力が?」
「それも俺はよく分からないけど、進化の賜物なんじゃないか? 体が小さくて力も弱かった昔のゴブリンの中で、魔法で肉体強化出来る者だけが生き残った。後は世代を重ねる中でその能力が強化されてったってわけだ。もっともあの村にいたゴブリンたちは長いこと戦闘してないからこの力をうまく使いこなせてないかもしれないけどな」
「す……すごい! ちょっと調べただけでそんなに分かるんだ!」
キラキラした尊敬の眼差しを向けてくるビスケ。
ちょっと恥ずかしいな。ほぼ想像の推論だし。
でも俺の理論はほぼ当たってると思う。この理論ならゴブリンの謎に説明がつくからだ。
それにしても……ビスケから読み取ったこの魔法、かなり洗練されてるな。普通の『
「素晴らしい……!」
やはり魔法は素晴らしい、こんなに芸術的なものに出会えるとは思えなかったぞ。
俺はその術式を脳に刻み込み。頭の中で色々改変してみる。いじる余地はほとんどなさそうだけど色々試してみたくなるのが人情ってもんだ。
「ひひ、ひひひひ……」
「いったい何してるの?」
「今アル様はトリップしてらっしゃるので何を言っても聞こえませんよ。面白い魔法に出会うとああなってしまわれるんですよね……」
俺はしばらくこの魔法で遊び倒すのだった。
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