第8話 ビキニール山脈

「ふう、ようやく着いたな」

「はい。ここがビキニール山脈の麓ですね」

「ひぃ……ひぃ……」


 ビスケを休ませつつ歩くこと三時間、ついに俺たちは目的地であるビキニール山脈に辿り着いた。

 ビキニール山脈の山肌はゴツゴツしていて歩きづらそうだ。よく見るとあちこちに人が入れる大きさの穴が空いている。


「ぜえ、ぜえ。あれは坑道ですね。ここら辺は昔、魔鉄鉱がたくさん採掘されていたのでああいった坑道がたくさんあるんですよ」

「なるほどね」


 坑道に入れば山の奥の深くまで入れるけど、坑道内の魔鉄鉱は掘り尽くされているだろう。

 どうしたもんかな。


「ビスケ、魔鉄鉱が採れそうなところに心当たりはあるか?」

「魔鉄鉱の採れそうな所……ううん……どこかあったかな……?」


 しばし考え込むビスケ。

 少し悩んだ後、何かを思い出したように手を叩く。


「あ、そうだ! 最近大きな地震があって山に切れ目が出来たんだ! 僕は見たことないけど、かなり深いらしいから魔鉄鉱があるかもしれないよ!」

「それだ。さっそく行こう」


 俺はニッと笑いながらそう言い、ビスケに道案内を頼むのだった。


◇ ◇ ◇


「見えた! あれだよ!」

「へえ、かなりデカイな」


 ビスケの指差す先には山の側面にパックリと開いた切れ目があった。

 切れ目はかなり広く、大型の飛竜すら入れる大きさだった。


「言ってた通りかなり深いな。ひとまず奥まで入ってみるか」

「足元は整備されてませんお気をつけください」


 シルヴィアの言うことを聞き、足元に気をつけながら中に入っていく。切れ目が大きいおかげで中も明るい。これなら照明を魔法で作る必要はないな。


「なあビスケ、魔鉄鉱ってどんな見た目してるか知ってるか?」

「ええと、たしか真っ黒で水晶みたいにトゲトゲした見た目だって聞いたことがあるよ。あと魔力を多く含んでるからそれで判別してたみたい」

「へえ、それなら見分けがつきそうだ」


 それっぽい石ころを拾い、魔鉄鉱かどうか確認しながら俺たちは奥へ進む。

 しかし中々お目当ての物は見つからなかった。


「うーん、こんなに難航するとはな」

「昔の人が掘り尽くしちゃったんだろうね。今日中に見つかるといいけど」


 体を土で汚しながら俺とビスケはため息をつく。魔法の研究ならいくらでも出来るけど、こう好きじゃない地味な作業が続くと気が滅入るな。何か面白い鉱石でも見つかればやる気も出るんだけど。


「アル様、ビスケさん。作業は一旦切り上げて休憩にしませんか? お弁当を作ってますので」

「お、いいね。ちょうどお腹が空いてきてたんだ」

「僕もいいんですか? やった!」


 疲れてた俺たちは意気揚々と食事にありつく。パンで野菜や干し肉を挟んだだけのシンプルな物だけど、味付けが絶妙で非常においしい。さすがシルヴィア、俺の好みをばっちり把握しているな。


 俺は十分に満足してるのだが、当のシルヴィアはそうではないようで申し訳なさそうに目を伏せながら謝ってくる。


「朝にぱぱっと作った物ですのであまり手がこんでなくて申し訳ありません……」

「ふぉんなこほないって、おいひいよこれ」

「はい! とても美味しいです!」


 二人してそう言うと、彼女は嬉しそうに「よかった」と言う。

 その笑みを見たビスケは顔を赤くしてかのじょを見つめる。何照れてんだおめえ、やれねえぞシルヴィアは。


「あらどうしたんですかアル様、そんなにこちらを見て」

「……なんでもない」

「?」


 やきもちを焼いてるなんて知られたら一生イジられ続けるだろう。俺は口を頑なに閉じるのだった。


◇ ◇ ◇


「さて、腹も満たされたことだし再開するか」


 ご飯を食べたおかげで再びやる気が出始める。

 前の世界ではロクな食事をとっていなかったな、それが早死にの原因の一つだったんだと思う。こっちに来てからは健康的でおいしい食事ばかりだしエナドリも飲んでないのですこぶる快調だ。


「あれ? 行き止まり?」


 一番先頭を進んでいたビスケが言う。

 見てみると確かに大きな岩が道を塞いでいる。どかせば先に進めそうだけど……。


「うーん、割れないか試してみるね」


 そう言ってビスケは背中に装着していたツルハシを握ると、その大岩を思い切り叩く。

 ゴブリンの怪力とツルハシが合わされば岩ぐらい簡単に砕ける……はずなのだが、なぜかその岩は砕けず表面に傷がつく程度で終わってしまう。


「あれ? 力が弱かったかな?」


 振りかぶり、もう一度叩くが岩が壊れる気配はない。

 諦めずにもう一度とビスケが大岩を叩いた瞬間、異変が起きる。


「な、ななななに!?」


 岩が、動いた。


 いや、岩じゃない。ビスケが叩いていたのは岩のような表皮を持つ魔獣だった。


『グオオオオオオオオッッ!!』


 大岩はその魔獣の背中だったのだ。どうやら気持ち良く寝てるところを起こしてしまったようで怒っている様子だ。


 その魔獣を見たシルヴィアは顔を青くしながら呟く。


「あれはロックビースト……! まさかこんな所にいるなんて!」


 そして鬼気迫る表情で俺に向かってこう言った。


「お逃げくださいアル様、あれはAランクの魔獣、今の私たちの手に負えません」



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