第2話 初めての狩り

 俺とシルヴィア、そしてグラムは鬱蒼とした森の中を進んでいた。

 見たことない植物や動物がそこにはたくさんあり、俺は楽しく観察しながら進んでいた。


「おっ! このキノコ、魔導茸まどうたけだ! あっちには髑髏草どくろそうまである! ……むふふ、これは研究が捗りそうだ」


 森の中には、城の中では手に入らない素材がたくさん落ちている。

 王都に近い森だけあって希少価値の高いものはそんなにないけど、自由に街を歩けない俺からしたらどれも宝の山だ。ありがたく貰ってくぜ。


「これとこれを混ぜればあの薬が……いや、とっておきのアレと組みあわあせた方が……」

「おいおい、そんな物騒な見た目の物ばっか集めて何しようってんだ?」


 宝集めに勤しんでると、グラムが話しかけてくる。

 もちろん姿は声は出さずにテレパシーで、だ。


「何って……魔法の薬だよ。俺は術式だけじゃなくて調合や錬金術にも興味あるんだ。幸い師匠には困ってないから分からない所は聞き放題だしな」


「まあ魔王が八人もいりゃあ分からないことはないよな。恐ろしい子どもに恐ろしい教師がついたもんだ……」

「何か言ったか?」

「いえなにもすみません」


 ごちゃごちゃとうるさいグラムを放っておき、採取を続ける。

 シルヴィアが遠くで「勝手に行かないでください!」と言ってるが、無視してガサガサと草をかき分けながら奥に入っていく。すると俺はそこである動物を見つけた。


「お、あれってマソジカじゃん」


 その名の通り角に魔力の素である『魔素まそ』を貯め込む特殊な鹿、マソジカ。

 見た目、サイズ共に地球にいた普通の鹿と同じだが、その角は紫色に発光しておりかなり目立つ。

 あの角の中に大量の魔素が詰まってるんだな? 素材としてぜひ欲しい。こっそり近づいて角だけ斬り落とすとしよう。


「そーっ……」

 体を飛行フライで浮かし、ゆっくりと近づく。手には魔法で作った剣を持っている。

 魔剣は折れてるので使えないからな。


(よし、ここまで来れば……)


 背後まで接近した俺は、刃を振り上げ斬りかかろうとする……が、その瞬間草むらから巨大な熊が現れマソジカを頭から食ってしまった!


「バクバクムシャゴクズゴゴゴッッ!!」


 その熊はまるでミキサーにでも入れたかのような爆音を鳴らしながら一瞬でマソジカを平らげてしまう。


「な、なんてことだ、俺の角が……って角は食ってないじゃん」


 肉にしか興味はなかったらしく、紫に光る角は地面に落ちていた。

 うん、傷もないし素材として問題ないな。


「な、なあアル……」

「ん? なんだよグラム、今いいとこなのに」

「後ろ! 熊がっ!」


 振り返ると鹿を食い終わった熊が、今度は俺めがけ襲いかかって来ていた。

 ナイフのように鋭い牙を剥き出しにして口から涎をぼとぼと垂らしている、どうやらまだ食い足りなかったようだ。


「アル! 逃げよう!」

「なあグラム。あいつの毛、硬そうでいい素材になりそうじゃないか?」

「はあ!? あいつは凶暴な魔獣『マーダーベア』だぞ! 逃げた方がいいって!」


 そう言われると逃げたくなくなるのが人のさがだ。

 俺は向かってくるマーダーベアから一歩も引かず、術式を構築する。


「術式展開……守護者ガーディアンッ!」


 魔法が発動し、俺の目の前に二枚の『盾』が現れる。

 半透明で縦に長いその盾は俺が作り出した『固有術式』のひとつであり、お気に入りの術式だ。


「そんな薄い盾で受け止められるワケねえだろ!」

「まあ見てろって」


 二枚の盾は俺を守るようにマーダーベアの前に立ちはだかる。


『ガアッ!』


 当然鬱陶しい障害物を排除しようとマーダーベアは爪を振るうのだが、守護者ガーディアンはその攻撃を全て正面から受け止めて見せた。


「嘘だろ!? あんな薄い盾でなん防ぎ切れんだよ!?」

「ふふん、俺の術式を甘く見るなよ。俺の固有術式は、古今東西様々な魔法を研究して作り出した次世代魔法。見た目がシンプルなのは完成してる証。その性能は普通の防御魔法よりずっと高いぜ」


 しかも守護者ガーディアンの凄さは硬さだけではない。なんと守護者ガーディアン自動オートで動いて適切に防御ガードしてくれるのだ。

 今もマーダーベアががむしゃらに爪や牙で攻撃しているが、それら全てを適切な位置と角度でガードしている。今までテストしか出来てなかったけどちゃんと動作してるな、よかったよかった。


『グルル……ガアアッ!!』


 攻撃を全部ガードされたことに怒ったのか、マーダーベアは思い切り守護者ガーディアンに噛み付く。

 ものすごい力がかかっているのだろう、ガキキキキッ! と金属同士が擦れ合うような音が響くが、守護者ガーディアンにはヒビひとつ入らなかった。


「性能テストはこんなものでいいか。モード変更【手動マニュアル】」


 自動オートで動かしていた守護者ガーディアンを手動操作に切り替える。左手に対応させた方の盾は齧られてて動かないので、自由な方の盾を右手で操作する。


「ほいっ」


 守護者ガーディアンの一枚を高速で動かし、マーダーベアの腹に思い切りぶつける。


『ゴギュッ!?』


 ご存知の通り守護者ガーディアンは硬い。

 斬ったり刺したりは出来なくてもぶつければかなり痛い。今の一撃が相当効いたのかマーダーベアは怯み動きが止まる。チャンスだ。


「術式展開、天舞う光刃スカイソード


 守護者ガーディアンを消し、今度は攻撃特化の固有術式『天舞う光刃スカイソード』を発動する。

 その名の通り光り輝く刃を五本展開するこの魔法は、守護者ガーディアンと同じく空中に浮いていて、俺の命令で高速で空を飛び対象を切り裂く。


「行け!」


 俺の命令に従い天舞う光刃スカイソードはマーダーベアに突き刺さる。硬い毛皮もなんのその、易々とそれを切り裂いてしまう。


「うわ、えげつな……」

「失礼な、やらなきゃこっちがやられただろうが」


 弱肉強食、強くなければこの世界では生きていけない。

 天舞う光刃スカイソードの攻撃を受けたマーダーベアはしばらく動こうとしたが、やがてその場に崩れ落ちる。どうやら俺の勝ち、みたいだな。


 さて、シルヴィアに見つかる前に剥ぎ取らなきゃな。


「さーて、毛皮に牙、爪……採るものはたくさんあるぞ」

「わあ、大物ですね」

「だろ? こりゃ持って帰るのが、たいへ……」


 振り返る。

 するとそこには笑みを浮かべるシルヴィアがいた。


「アル様? 勝手に行っては駄目だと言いましたよね……?」

「そ、そうだっけ、てへ」


「そんなかわいくとぼけても駄目ですっ!」


 渾身のすっとぼけ虚しく、俺は長い長いお説教を食らってしまうのだった。

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