第二章 魔鉄鉱を求めて
第1話 山を目指して
まだ暗い王都の街中をシルヴィアと共に走る。
ほとんどの人が寝静まっているとはいえ、用心するに越したことはない。外套に付いたフードを深く被り、顔が見えないようにする。
「俺も素顔で街中を歩けるようになりたいなあ」
「仕方ありませんよアル様。人間が王都にいると知られたら大騒ぎになってしまいますからね」
「やれやれ、生きにくいったらないな」
俺が人間であることを知っているのは八人の魔王と、メイド達と、一部の魔王城関係者のみだ。
勇者召喚された人間がいるなんて一般人に知られたら大変だからまあ当然の処置だ。
しかし……退屈だ。
もっと街に出て買い物したり美味いものを食べたりしたいのだが、俺の外出許可は出ていない。なのでとある魔法を開発しているのだが、まあそのことは一旦忘れておこう。
「……ふう、ここまで来れば大丈夫か」
王都から出てしばらく走った俺は、フードを取る。夜風が顔に当たって気持ちがいい。
「ていうか王都の外にちゃんと出たのは初めてか。なんだか感動するな」
目の前に広がる平原を見て、感慨深く呟く。
昔、
「正面に見える大きな火山が炎の国ムスペルニアで、その左の方が人間領か。じゃあ反対の右側がビキニール山脈だな」
「その通りです」
うん、勉強した通りだ。
俺の元いた世界と違って、異世界は自然豊かだから見てて飽きないな。いつかゆっくり旅したいものだ。
「で、山脈にはどうやって行くんだ? 街道沿いに歩くのか?」
「それもいいですが、道を外れてまっすぐ山脈に行こうと思います。整備されてないので走りにくいですが、アル様であれば大丈夫ですよね?」
そう言ってシルヴィアは挑発的な笑みを浮かべる。
こいつ、おちょくってるな? 分かったその勝負、乗ってやる!
「当たり前だろ。こんな場所一瞬で駆け抜けられるぜ」
「ふふ……流石ですアル様。では一つ、私と勝負しませんか?」
そう言ってシルヴィアは目指す山脈の手前にある森を指さす。
「先にあの森にたどり着いた方が勝ち、というのはどうですか? せっかくの旅ですし楽しい方が良くないですか?」
「面白いね、ちょうど走りたかったところなんだ」
せっかくの初外出だ。思い切り走り回らなきゃ損だ。
今まで魔王城の中か庭でしか走れなかったからな。存分に体を動かそう。
「いつでもいいぞ」
「そうですか、じゃあこの石が落ちたら開始としましょう」
そう言ってシルヴィアは足元に落ちていた小石をひとつ、つまみ上げると上に放り投げる。
「あ、そういえば罰ゲームを決めてませんでしたね」
「へ?」
「では勝者は敗者に何でもひとつ、お願いを聞いてもらうということで♪」
小石が音を立てて地面に落ちる。
その瞬間、鬼のような速さでシルヴィアは駆け出す。クソ! 嵌めやがったな!
「どんなお願いされるか分かったものじゃない……この勝負、絶対に負けられない!」
一瞬で魔力を溜め、脳内に術式を描く。
発動するのは複数の魔法。固有術式は一度に一個しか発動できないけど、普通の術式魔法なら複数発動が出来る。
「術式魔法……
二つの術式を発動させ、地面を蹴る。すると一瞬で体が前方に吹き飛ぶ。
そして地面スレスレを飛行しながらシルヴィアを追いかける。
「はは! やりますねアル様!」
楽しそうに笑いながらシルヴィアは走る速度を速める。
……あいつ魔法使ってないよな? いくらエルフが身体能力が高い種族とはいえ速すぎだろ。
このままでは負けてしまう。気が引けるが妨害するとしよう。俺は飛びながら右手で地面に触れ魔法を発動する。
「術式魔法『
巨大な壁が現れ、シルヴィアの進路を塞ぐ。
結構硬めに作ったので足止めになるだろう。
「その速度で動きながらこんな魔法を使えるなんて……本当にお強くなりましたねアル様。私はお世話がかりとして嬉しいです、ぐすん」
そう言いながらシルヴィアは腰に差していた剣を抜き、
容赦無さすぎない?
「ちょっと本気すぎない!?」
「これも愛の鞭です、ご容赦を」
こんな感じで騒がしく俺たちは目的地へと向かった。
ちなみに勝負は僅差で負けた。ちくしょう。
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