第8話 ◯が折れる音がした

 魔剣を手に入れた日の夜。

 俺はメイドのシルヴィアが部屋を出て行ったのを見計らってベッドの下に隠していた魔剣を取り出す。


「よう、起きてるか?」

「ん? もう喋っていいのか?」


 グラムは普段は喋らないようにさせている。

 もしこんなレアな魔剣持っているとバレたら没収されかねないからな。特にデス爺なんかは過保護だから危険だからと取り上げられるのは間違いない。


「せっかく封印から解かれたっていうのに人の手に収まるってしまうとは。自由の身が恋しい……」

「でもお前が見つかったらマズイだろ?」

「おいおい俺様は悪名高き魔剣グラム様だぞ? 魔王でも相手じゃない限りそう負けはしねえ」

「この城、魔王八人いるぞ?」

「……は、はああああっっ!?!!??? ここ、魔王城だったのか!? し、しかも魔王が八人いるってどういうことだよ! 普通一つの国に魔王は一人だろうがっ!!」


 グラムはひどく慌てる。

 こいつ、自分がどこにいたのかすら知らなかったのか。


「昔は一つの国に魔王は一人だったらしいけどな。今この国は八人の魔王が協力して治めてるんだ。そうでもしないと『勇者』から国を守りきれないんだって」

「勇……者? なんだそいつは、強いのか?」


 グラムは勇者という言葉を初めて聞いたらしく、首を傾げる。

 そういえばデス爺が勇者はここ百年で生まれた存在だって言ってたな。ということはグラムは勇者が生まれるより前、つまり百年以上前から封印されてたって事か。


「いいか、勇者っていうのはな……」


 俺は簡単に勇者が何者なのかを説明する。

 その全てがここから違う世界で死に、この世界に呼び出された人間であること。

 勇者は全員、女神と呼ばれる謎の神から「異能チート」を貰っていること。

 勇者は魔族に対して強く、既に勇者の手によって滅ぼされてる国もあるということ。


 そして何を隠そう、俺もこことは違う世界で生まれた「勇者」の一人であるということ。


「……お前が別の世界から来たとは驚いたぜ。ってことはお前も女神に会って異能チートとやらを貰ったのか?」

「俺は女神に会ってないんだ。女神の所に行く途中で魔王に召喚されたからな。だから異能チートは持ってない、残念ながらな」

「……つうことは異能チート無しであんなに強いのかよ。そっちの方が怖いわ……」


 俺は俺以外の勇者に会ったことがない。だから異能チートがどんな力なのか知らない。

 くそー、俺も欲しかったな。術式に応用出来たかもしれないのに。


「ま、話はこれくらいにして今は魔剣をいじろうかな」

「おい、あんまり乱暴に扱うなよ」


 グラムの言うことを無視して魔剣を鞘から引き抜こうとする……が、引っかかって上手くいかない。どうやら中が錆び付いてしまってるみたいだな。

 だけど揺らしながら引くと少しづつ動く。もうちょっと力を込めれば抜けそうだ。


「術式発動、肉体強化ストレングス!」


 魔法の力で筋力を上げ、無理やり引っこ抜く。

 するとメリ! と大きな音を立てて剣は鞘から抜ける。


「よし! ……ん?」


 抜けたのはいいけど、やけに刀身が短い。これじゃ剣じゃないくてナイフじゃないか。

 おかしいなと思っていると、鞘からゴトリと何かが落ちる。


「あ」


 床に転がり落ちたそれは、魔剣の刀身だった。

 なんと魔剣は根本近くからポキッと折れてしまったのだ。


「はは」

「『はは』じゃねえ! どうしてくれんだよ折れちまったじゃねえか! うおおおお! 俺の刀身があああっっ!!」


 鍔から大粒の涙を流すグラム。

 どういう仕組みをしてるんだろう、やっぱり一回解体バラすか?


 俺は悲嘆に暮れるグラムの柄をポンと叩き、慰める。


「まあ落ち込むなって。そういう日もあるさ」

「お前が壊したんだろうが!」


 むう、話が通じない。

 しょうがない。俺にも非があるし、ここは俺がどうにかしてやるか。


「そんなに泣くなってグラム。俺が直してやるからさ」

「ほ、本当か?」

「ああ、剣ひとつ直すなんて楽勝だ」


 たぶん。


「言ったな! 絶対直せよ!」

「はいはい。だから今日はもう寝ようぜ。今日はもう疲れちゃったよ」


 ふあ、とあくびをした俺はふかふかのベッドに入る。この体はスタミナこそ無限大だが夜はすぐ眠くなるという弱点がある。


「分かったよ。今日は大人しく寝るよ。ああ折れた場所が痛むな……」


 未練がましく言いながらグラムは黙る。

 はあ。せっかく魔剣を手にれたのに面倒くさいことになってしまったな。

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