第7話 上方修正《アップデート》

『馬鹿にしやがって……! だったらお望み通り俺の力を見せてやる! 死ね! 悪魔飛刃イービルエッジッ!』


 魔剣は鎧の手の平に魔力で構成された剣を作り出すと、それを俺に投げつけてくる。

 いいね、さすが魔剣。そういうのを待ってたんだよ!

 俺は嬉々としてその一つを素手で掴み取って、解析する。


「へええ……なるほど、魔剣はこういう魔法を使うんだ。構造が魔族のものとは根本から違う、面白いね」

『お、俺の魔法を掴んだだとぉ!? ありえねえっ!!』


 魔剣はヤケクソ気味に剣を投げまくって来る。

 この程度の攻撃、避けても防御してもどうとでもなるけど、折角だからあれを試してみるか。


「ここをこうして……こんな感じ?」


 手の平に魔力を集め、先ほど魔剣が投げてきた剣と瓜二つの物を俺は作り出す。

 うん、中々の再現精度だ。


「ほいっ」


 俺はその剣を空中で自由自在に動かし、魔剣の攻撃を撃ち落としていく。

 うむ、攻撃力も同じくらいはあるな。術式を最適化すればもっと強くなるぞ。

 

『ば、馬鹿な……俺様の悪魔飛刃イービルエッジを真似するなんて、あり得ない……』


 魔剣は震えた声で喋る。どうやら余程ショックだったみたいだな。


「どうした、次を見せてくれよ。まだ終わりじゃないだろ?」

『ぐぐぐぐ……っ! 舐めやがってガキが! なら俺のとっておきで塵も残さず殺してやるよ! 悪魔の巨大刃ハイイービル・エッジ!』


 いったい何をしてくれるんだ! と期待したけど、魔剣が作った魔法はさっきの剣の魔法の強化バージョンだった。

 ううん……期待外れだ。もっと面白い魔法を期待してたんだけどな。

 こいつから得るものはもう無さそうだな。いつまでもここにいて親にバレるのも嫌だし、さっさと終わらせるとするか。


「術式発動」


 頭の中に『悪魔飛刃イービルエッジ』の術式を思い浮かべる。

 これに魔力を流せば魔法が発動するのだが、その前に色々術式を書き換える。


 威力増加、範囲拡大、見た目エフェクト増加、速度上昇、消費魔力効率化……とこれくらいでいいか。

 俺の手により魔改造された『悪魔飛刃イービルエッジ』は元の魔法とはもはや別物に上方修正アップデートされた。

 名付けるなら、そうだな……。


悪魔飛刃イービルエッジ Ver.1.5!」


 俺の手から放たれる魔改造された破壊の刃。

 それは魔剣の放った魔法を一瞬で両断し……


『うそん』


 その後ろにいた魔剣の動かす鎧を容赦なく一刀両断するのだった。


◇ ◇ ◇


 散らかってしまった店内を歩き、目当ての物を探す。


「うーんとここら辺に……お! あった!」


 床に散らばった剣をどかし、その下から目当ての物を見つけ出す。


「うむ、無事だな。さすが魔武器だ」


 鞘が少し傷付いてはいるが、剣自体は何ともなさそうだ。良かった良かった。

 さて、とっとと店内を片付けておさらばしよう……と考えていると、手にした魔剣が鍔の部分を動かしながら喋る。


『ゲホッゲホッ! 生きてた! 死ぬかと思った!』

「おー、頑丈だなお前」


 あの魔法を食らって生き延びるとは大したものだ。

 流石は魔剣、頑丈なんだな。


 魔剣は自分を握るのが俺だと気づくと『ひい!』と怯えた声を上げる。失礼な奴だ。


『お、お前まだいたのか!』

「そらいるだろ」

『クソ! お、おおお俺だって男だ! 煮るなり焼くなり好きにしやがれ!』

「へえ、思ったより潔いんだな」


 少しだけ見直した。

 この魔剣の中にあるこいつの人格を消して、剣の部分だけいただいてもいいけど……それより面白いことを考えた。


『やるならやれ!』

「いや。お前を消すなんてもったいない真似はしないよ」

『……へ?』

生命を持つ剣インテリジェンスソードなんて珍しい。色々研究したいし、お前ごと貰うとしよう」

『な、なんだって!? 誰がお前なんかと!』

「いいの? 大人しく従ってくれれば悪いようにはしないけど」


 俺がそういうと、グラムはぶつぶつと考え始める。


『……いや、でも悪くない話か。隙を見て逃げ出すことも出来るかもしれないし……』

「どうした?」

『な、なんでもねえ! それよりその話、乗った! 特別に俺がお前の剣になってやろう!』


 そう礼を言うグラムだが、もちろん俺は信用していない。どうせ裏切るつもりだろう。

 だから俺は『保険』をかける。


術式纒身じゅつしきてんしん……えい」


 魔剣の鍔の部分ににぽん、と術式を貼り付ける。

 術式は少しだけ光った後、グラムの体の中に溶け込んでいき、消える。


『……ん? 何をしたんだ?』

「たいしたことじゃないよ。裏切らないよう契約しただけだから」


 そう言うとグラムは鍔の部分から滝の様な汗を流す。

 魔力生命体でも汗って出るんだ、面白い。後で採取しよ。


『それって……どんな契約なんだ?』

「たった二つだけだよ。一つは約束を破ったら物凄い苦痛を浴びて死ぬ契約。もう一つは俺の家族に手を出したら爆発四散する契約。簡単でしょ」

『…………こ、この悪魔っ!!!!!』


 グラムはその場でおいおいと泣き出してしまう。

 俺は優しくその肩に手を乗せる。


「ま、頑張れよ」

『お前が原因だろうがっ!』


 いやあ今回は収穫が多かったな。満足満足。


「じゃあこの剣、貰っていくよ」

「あ、ああ……」


 俺は放心している店長に礼を言い、少し重い剣とめちゃくちゃ泣いてる魔剣を持って帰ったのだった。

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