第6話 いざ武器屋
俺が住んでいるこの国の名前は『魔王国アスガルディア』。たくさんの魔族が住む魔族領の中でも一番大きい国だ。
そしてその魔王国の王都、イズベルシアにそびえる魔王城『ヴァルハラ』が俺の住んでいる城だ。
ここに住んでもう十年になるけど、行ったことがない場所もたくさんある。
ガーランに紹介されて訪れた武具屋『千刃堂』もその一つだ。
「一般開放されてるとこには行っちゃ駄目って言われてるからね。バレる前に帰らないと」
魔王城には一般的に開放されてる区画と、魔王城の関係者しか入れない区画がある。当然俺は関係者しか入れない区画で普段は生活している。
開放されてる区画には俺の正体を知らない人も当然いるので、今は外套のフードを被って俺が魔族じゃないとバレないようにしている。
もし人間がここにいるなんて知られたら大きな騒ぎになってしまうからね。
「おじゃましまーす」
堂々としながら店内に足を踏み入れる。
こういうのはコソコソしてる方が怪しまれる。
「おお……武器がいっぱいだ」
狭い店内の至る所に剣や槍などの武器が並べられている。ガーランのいう通り古い物が多いけど、どれも手入れはキチンとされてそうだ。
店内にはお客さんは他にいなくて、店主らしきお爺さんが一人椅子に座っていた。
頭はハゲていて、
胸元にはプレートを付けていて『ガボラ』と書かれている。どうやらそういう名前のようだ。
「なんだ坊主。ここは武器屋だぞ、お前の欲しがるような物はない、帰った帰った」
低くドスの効いた声でガボラは言う。
見た目通りの頑固ジジイみたいだ。
「武器を買いに来たんだ、手ぶらでは帰れないよ」
「あァ? ガキに武器を売るほど
うーん。思ったよりも手強そうだ。口で丸め込むのは厳しいだろう。
よし、ガーランに貰ったアレを渡そう。
「これを見て貰える?」
「ん? なんだこりゃあ……って、これはガーランの紹介状じゃねえか! なんでお前みたいなガキがこれを!?」
「まあちょっとね。それより武器を見てもいい?」
「……腑に落ちねえがガーランの頼みとあれば無碍には出来ねえ。あいつには世話になってるからな」
「よっしゃ! ありがと!」
許可を得た俺は早速店内を物色し始める。
今までは魔法のことばかり研究してたけど、こうやって武器を眺めるのも少年心をくすぐられて中々楽しい。 魔法にも役立つだろうしもっと詳しくなりたいな。
「うーん、悩ましい」
時間をかけじっくりと店内を回ったけど、中々これといった物は見つからなかった。
そもそも予算が少なすぎる。普段は外に行かないので現金をほとんど持ってないのだ。普段は欲しい物は買ってもらっているからなあ……
「どうした坊主、買わないのか」
「いやあ、お金がなくて……」
「だったらこれはどうだ? 安物だが切れ味はいいぞ」
そう言ってガボラが見せてくれたのは少し古びたショートソード。
確かに俺でも買える値段だし、切れ味も申し分ないんだろうけど……素材が普通すぎる。もっと希少な素材を使ったじゃないと魔法を付与出来ないんだよなあ。
「ねえおじさん、この店で一番いい『素材』を使った剣ってなに?」
「いい素材? だったらこの『雷光燕丸』だな。天雷山の稲妻で鍛えられたこの剣は希少金属をふんだんに使った名刀だ」
ガボラが見せてくれたその刀の刀身はとても美しく、見ただけでその刀が高級品だということが分かる。これなら間違いなく良い術式を付与できるだろう。
……しかし一級品なのは素材だけじゃなかった。
「いい刀だけど……高すぎる」
その刀には、小さな家なら買えちゃうんじゃないかという値段が付けられていた。とてもじゃないけど手持ちの金だけじゃ買えない。
デス爺の肩でも叩けばお駄賃を貰えるかもしれないけど、それでも賄いきれないだろうな。
「これって安くならない?」
「おいおい勘弁してくれよ。いくらガーランの紹介とはいえ、子どもの小遣いでこの刀は売れねえよ」
「だよなあ……」
困った。
せっかく武器屋までたどり着いたっていうのに手ぶらで帰るのはあまりにも切ない。
何か良い手はないものかと考えていると、店主のガボラが何か思い出したように「あ」と声を出す。
「後はこれくらいだな。もっとも箱を開けることすら出来ねえが」
そう言ってガボラが机の上に置いたのは、金属製の箱だった。
その箱には何個も鍵穴がある上に、太い鎖でぐるぐる巻きにされていた。これをやった奴はどれだけ開けて欲しくなかったんだ。
「これは?」
「いわくつきの剣だ。なんでも中には呪われた剣が封印されているらしい」
「へえ、それは興味深い……!」
箱に触れてみると、わずかながら中から魔力を感じる。
中に魔力を持った何かが封印されてるのは間違いなさそうだ。
「俺も興味があって開けてみようとしたが、ビクともしやがらなかった。どんな剣が封印されてるのやら」
ガボラは「はあ」とため息をつく。
ふむ、これはチャンスだな。
「おっちゃん、もしこれ開けたら中の物って貰っても良い?」
「え? まあ開けることが出来たら考えてやってもいいぞ。無理だとは思うがな」
そう言ってガボラは鼻で笑う。
ふふ、言質は取ったぞ。確かにこの箱は硬い、だけど俺には魔法がある!
「
脳内に魔法の術式を思い浮かべ、それに魔力を流す。
すると全身に力が漲り筋力が大幅に増加する。式に変換した魔法は普通に使用するよりも強力かつ魔力の消費も少ない。
ただの人間である俺の身体能力は低いが、この魔法を発動することで大人の魔族を大きく上回る力を得ることが出来るのだ。
「これで、ふん……っ!」
鎖をガシッと掴み、無理やり引きちぎる。
それを見たガボラは「ええ!?」と目をひん剥いて驚く。ふふ、気持ちいいぜ。
「そんで……こうだ!」
鍵がかかった箱も素手で強引にこじ開ける。ふはは、力こそパワーなのだよ。
「お、お前何者だ……? ただの小僧じゃないな?」
「いいじゃん今はそんなの、それより中身だ!」
箱が開いたことより俺の力に衝撃を受けてるガボラを放っておき、俺は箱の中身に目を移す。中に入っていたのはなんと……
「お、この形は剣じゃん! これはついてるぞ!」
箱の中にあったのは白い布でぐるぐる巻きされた剣。
よく見ると布には何やら魔力が込められている。これは……封印? 解析してみるとどうやら封印魔法がかけられているみたいだ。
これの意味するところは一つ。
「魔剣だ……!」
普通の剣に封印がかけられることはない。
だとすると魔法効果のかかった剣、いわゆる「魔剣」の可能性が非常に高い。興奮した俺はためらう事なく布を解いていく。
封印魔法の効果で電気が走ったり爆発したりしそうになるが、それらは全部発動前に『
「さて。中身は……っと」
布の下から出てきたのは長年封印されてたにしては、まあまあ綺麗なロングソードだった。ところどころ錆びてはいるけど、許容範囲内だ。
「さて早速抜いてみるか……うおわっ!?」
鞘から剣を抜こうとした瞬間、ボフン! と黒い煙が剣から噴き出る!
そのはずみで思わず剣から手を離し落としてしまう。
すると煙は剣を取り込むと、どんどん膨れ上がり大きな人型へと姿を変える。
『……まさか復活できるとは。感謝しますよ見知らぬ子どもよ』
全身真っ黒の人型の何かが喋る。
下半身が途中から消えていて上半身のみのその姿はランプの魔人によく似ている。
あの封印は剣本体ではなく、こいつを封印してたんだな。
『くくく。驚いて声も出ないか』
「なあ剣返してくれよ」
『……驚いてないの?』
ごちゃごちゃとうるさい奴だ。俺はさっさとその剣を持って帰って研究したいんだ。ヘンテコ生物に興味はない。
「面白生物と構ってる暇はないんですケド。とっとと剣渡してまた消えて貰ってもいいですか?」
『舐めた口を! 俺はこの魔剣グラムに取り憑く悪魔グラム様だぞ!』
「へえ、悪魔……!」
悪魔とは現在では絶滅したと言われる魔力生命体だ。
実体が無く、何かに寄生して生きる不思議な生物。一度解剖してみたかったんだよな……!
「なあ、その体調べさせてくれよ」
『……ハア? 俺様は悪魔だぞ? お前怖くないのかよ』
「怖い? いや別に?」
そう答えると悪魔は苛立たしげに顔を歪める。なんか知らんけど怒らせてしまったようだ。
『……どうやら悪魔の恐ろしさを知らねえようだな。だったら教えてやるよ!』
悪魔はそう吠えると拳を構える。どうやら
俺は横でビビっている店主のガボンに目を向けると、悪魔を指さして提案する。
「店主のおっちゃん、アレ倒したら剣貰っていい?」
「な、なんでもいいからやってくれ! 店がめちゃくちゃになっちまう!」
「おっけー。サクッとやりますか」
言質を取った俺は悪魔のもとに近づく。
『馬鹿にしやがって、死にてえらしいな!』
悪魔は太い腕で殴りつけてくるが、俺はその一撃を左手でパシッと難なく受け止めてみせた。
『ぐ、ぐにに……! 馬鹿な俺様の拳がこんな餓鬼に……!』
「悪魔って言ってもそんなに強くないんだな。ガッカリだ」
俺は右の拳を握りしめ、悪魔の腹めがけてそれを放つ。
「せいっ、獣王拳!」
『ぷげらっ!!』
魔王の一人、『獅子王レオナルド』直伝の正拳突きが悪魔の腹に命中する。
おー、よく飛んだな。少し手加減したけど死んでないよな?
『ゲホッゲホッ! 何しやがるてめえ!』
「お、生きてた。良かった良かった」
貴重な悪魔の
それにまだ悪魔の力を堪能していない。
「まさか攻撃が
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