第5話 剣が欲しい!
「剣が欲しい!」
デス爺の服をいじった次の日、俺は専属メイドのシルヴィアにそう言った。
あまりにも唐突にそんなことを言ったもんだからシルヴィアは困ったような顔をする。
「剣……ですか? なんでそんなような物を?」
「ええと……ほら! 俺もそろそろ剣とか習ってみたいな……とか思ったりして」
当然そのような事は考えていない。
俺の頭の中にあるのは『術式付与』だけ。武器に術式を仕込む実験をしたいのだ。
物に術式を仕込むには、その素材が高価な物じゃないといけない。そこらの石ころでは少し硬くするくらいしか出来ないが、立派な剣なら様々な効果を持つ魔法剣にすることが出来る。
シルヴィアは俺に甘い。
自分で言う事ではないが、転生した今の俺はとてもかわいいからだ。
魔族のみんな俺のかわいさにデレデレなのだ、これを利用しない手はない。
「申し訳ないのですが、それは出来ません……」
「ええ!?」
なんと断られてしまった。
これは予想外だ。
「武器の類は危険なので渡すなと冥王に言われています。アル様の望み、叶えて差し上げたのですが言いつけを破れば専属メイドを外されかねません。ご容赦を……」
「そっか……
あの人は過保護だとは思っていたけど、まさかそんな命令を出していたとは思わなかった。
ううむ、これじゃ他のメイドを頼っても無理そうだな。
何か他の案を考えないと。
うなだれるシルヴィアを慰めたあと、俺は一人魔王城の中を駆け回るのだった。
◇ ◇ ◇
「うーん、中々見つからないなあ」
剣でなくとも武器くらいだったらすぐに手に入ると思ったんだけど中々見つからない。
練兵場にでも行けば簡単に手に入るとは思うんだけど、盗んだのがバレたら没収されてしまう。
どこかに誰も使ってない、忘れられた武器とかないかなあ。出来るだけ高品質の。
そんなことを考えながら歩いていると、城の廊下を歩くある人物を見つける。
「あ! ガーラン!」
「ん? おうアル坊じゃねえか」
俺の言葉に反応し、振り返ったのは重そうな鎧を身に纏った骸骨騎士だった。
この人は八人の魔王の一人、剣王ガーラン・ドルドフスキー。種族は見ての通りスケルトンだ。
ガーランも他の魔王たち同じく俺を可愛がってくれている。いつもは戦場にいて中々会えないけど、たまに会う時は面白い話をしてくれたり珍しいお土産をくれたりする。
感覚的にはたまに会う気のいいおじさんって感じだ。話も合うし俺は結構懐いている。
「城に来てたんだ、知らなかったよ」
「思ったよりも戦いが早く終わってな。西側の被害状況とどれぐらい物資が必要なのかってのをハデスに伝えに来たんだ」
「へー、大変そうだね」
「まあな。だが誰かがやらなきゃいけねえことだ」
そう言ってガーランは髑髏の顔でニカッと笑う。
義理堅い人(骨?)だ。
「で? アル坊はこんなとこで何してんだ? いつも部屋にこもってんじゃねえか」
「えーっと今は剣を探してて……ってそうだ! ガーランなら知らない? 今剣を探してるんだけど何か知らない? なるべくいい素材を使っているやつが欲しいんだけど。あ、お金はあまりないからなるべく安くで!」
「剣だって?」
ガーランは魔王国一の剣士、『剣王』だ。
当然剣についても詳しいはず、ワンチャンお下がりを貰えるかもしれない。
「ふむ、高品質で安くか。なかなか難しい条件だな」
「やっぱり駄目かあ……」
流石に虫が良すぎたかと落ち込む。
するとそんな俺を見かねてかガーランは案を捻り出してくれる。
「絶対とは言えないが、あそこだったら掘り出し物があるかもしれない。ちょっと待ってろ」
そう言ってガーランはメモ紙にすらすらと文字を書いて俺に渡してくる。
読んでみるとその紙には「紹介状」と大きく書かれていて、その下に細かく文字が並んでいた。
「何これ?」
「魔王城の中にある、俺が贔屓にしてる武器屋への紹介状だ。古い品ばかりのボロっちい店だが、時々掘り出し物もある。もしかしたら魔武器なんかも見つかるかもな」
「魔武器……っ!」
その言葉に俺は胸が高鳴る。
魔武器とはその名の通り魔法効果のある武器のことだ。
自分で簡単な魔武器を作ることは出来るけど、他人の作ったものは見たことがない。いい研究材料になりそうだ。
「ありがとう! ちょっと行ってくる!」
「あ、俺が紹介してっていうのは他の奴らには言うなよ!」
「はーいっ!」
「おい! 聞いてんのか!?」
居ても立っても居られなくなった俺は、ガーランを置いて走り出す。
最後に何か言ってたけどどうせ大したことじゃないだろう、それより今は魔武器だ!
いったいどんな物があるのか楽しみだ!
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