黄色いたんぽぽと、小さなさよなら

 ……ココみたいに真っ白な鳥が、ちちちと歌を歌ってる。ココも体を揺らしながら、楽しそうにわんとほえた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん! ねぇねぇ、あの鳥の名前はなんて言うの?」

「あれはね、スノーバードと言うんだよ。雪のように白いから、スノーなんだ」

 ぼくは昨日の約束どおり、お兄ちゃんとココと一緒に、小さなうら庭で遊んだ。黄色いたんぽぽをたくさんつんだら、お兄ちゃんが花かんむりを作ってくれた。

「羽が白いから、スノーなんだ! じゃあ、羽が真っ赤だったら、サンバードなのかな?」

「あははは、そうかもしれないな……」

 お兄ちゃんはあははと笑うと、水色のボールをつかんで投げた。ボールがひゅうっと風を切ると、ココは一目散に飛んでいって、いい子にボールをくわえてくる。

「よしよし……、いい子だ、ココ……。そーれ、今度はピンクのボールを投げるぞ」

 ピンク色のボール、水色のボール……。ぴかぴかの二色のボールが、飛んではやって来て、また飛んではやって来た。

 ――ああ、懐かしい記憶だ。あの頃は、家の隅の裏庭も、こんなにきれいだったのに。

「お兄ちゃん! 今度はぼく! ぼくの番!」

「はいはい、分かった分かった……。ほーら、ココ。今度はルカが、ボールを投げるからな」

 ――兄はいつだって優しくて、そして頼もしかった。突然消えてしまったのが、信じられないくらいだ。

「ココ、いくよー! ほーら、取ってこーい!」

 ――おいおい、勢い余って、遠くに投げ過ぎだ。あんなに遠くに行ってしまったら、ココも取って来られない。投げた俺が、取りに行かないと。

「あーあ……。遠くに投げすぎちゃった……」

「確かに、あれは遠すぎるな……。よし、お兄ちゃんが取って来よう」

 ――駄目だ、おまえ。兄に取りに行かせるな。

「ううん! ぼく、自分で取ってくる!」

 ――よし、よく言った。偉いぞ、おまえ。あのボールは遠すぎる。だからきっと……、もうここには、帰って来られないな。

「ぼくが取ってくるから! だから、あのね……!」

「うん? どうした、ルカ?」

 ――もう二度と、帰って来ることはない。そして、もう二度と会えない。あの世で会うには、俺は人を殺し過ぎた。ならばせめて……。別れの挨拶くらいは、言わせてほしい。

「……ありがとう、お兄ちゃん。本当に、ありがとう」

 ……ぼくは最後にそう言って、深い森の奥へと走り出した。ここではない、どこか別の世界へ。

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To say goodbye is… 中田もな @Nakata-Mona

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