第2 話 未知
足を踏み入れたその場所は、お洒落な建物の2階にセッティングされていた。ざわめくパーティー会場は落ち着いたモダンな雰囲気で綺麗に装飾されており、シンプルな木製の丸テーブルと椅子がならんでいた。そして、お洒落をまとった男女の姿。私は一瞬たじろいだ。それはそうだろう。こんな華やかな場所なんて今まで経験した事がなかったし、どちらかと言えば地味な人生を歩んできたのだから。
実はこのパーティー、高学歴で年収700万円以上の男性しか参加できないのである。そんな20歳台から30歳台までの男性が集まり、そして綺麗な女性たち。何とまあ、場違いな私。
帰りたい、でも今さら帰れない。
あああっ、もう。どうしたら良いの?と、頭の中でぐるぐるしたまま固まっていた。
「いかがされましたか?」
1人の女性が話しかけてきた。どうやら主催者側のスタッフらしかった。
「コートをお預かりいたします。それから、お名前をご記入いただけますでしょうか」
私はコートを預けて名前を記入した。
高杉彩音、と。
スタッフに案内されて歩を進めた先で私は1番奥のテーブルに腰を下ろした。視線の先にはドリンクが並べられている。そういえば、のどかカラカラだった。席を立ちドリンクをチョイスしてから、また席に戻る。すると、空いていたはずの席に1人の男性が座っていた。
「こんにちは」
その男性は軽く会釈しながらあいさつをしてきた。
「こんにちは」
私もつられてあいさつ。ずいぶんと慣れた感じの男性。歳は20歳台後半位かな?などと、ふと思ったがその思考は直ぐにおさまった。
「皆さま、本日はこの場所へ足を運んでくださりありがとうございます。皆さまにとって素晴らしい時間をお過ごしいただけるよう努めてまいります。よろしくお願い致します」
と、主催者側のあいさつが始まった。そして、パーティーのルールなどの説明を述べられた。
どうやら、同じテーブルの男女で会話をし、その後気になる女性に男性から自身のプロフィールが書かれたカードを渡し、その時に女性からもそのカードを渡す、というものらしい。
つまり、男性に気に入られカードを渡されないと出会いが成立しないのだ。
はぁー、と心でため息をつく私。ハードルが高
すぎるでしょ?無理でしょ?絶対。
東京の大学出身とは言え、地方の田舎育ち。一応、地元では名のある医者家系の末っ子だが、
やはり都会育ちの女性には叶わず、どちらかと言うと話し下手。
帰りたい、具合が悪くなったと言って帰ってしまおうか。頭の中がまたぐるぐるしてきた。
とりあえず落ち着こう。飲み物が入っているグラスに手をのばす。が、グラスは空。
はぁー、仕方がないな。だるく感じる気持ちを抑えて席を立とうとした。
「お持ちしましょうか?飲み物」
ふと、声をかけられた。声の主に視線を向ける。先ほどあいさつを交わした男性だった。
「いえ、大丈夫です」
と、返す私。一瞬、男性の視線が揺らいだように感じたが早く飲み物が欲しかったのでさっさと席を立った。
オレンジジュースを片手に席に戻る。そして、周りを見渡す。ザワザワと、しかし穏やかで静かな空気。あちらこちらで会話する男女の姿。
もうすでに婚活がまことしやかに始まっていた。
どうしたものか。何もせずにいたら男性からカードすら渡してもらえなくなる。しかし、ここで勇気を振りしぼり積極的に話しかけたとしてもアプローチされるかどうかも分からない。
空しさが込み上げてくる。本当に私って恋愛下手だな。せっかくここまで来たのにな。華やかな会場とは裏腹なネガティブな思考を彷徨っていた。
「あの、良かったら僕と話しませんか?」
下向きなだった視線をふと上げる。
そこには、やはり先ほどの男性。目が合った瞬間思った。この人だったら会話が盛り上がりそうだな。
そこからは、肩の力が抜けたのか。その男性と楽しく世間話で会話が弾んだ。
仕事のこと。趣味のこと。休日の過ごし方。大学のことや友達のこと。好きな食べ物嫌いな食べ物のこと。初対面とは思えない程、楽しくて気さくに話せる人だった。
その後、結局、数人と会話を広げてカードを3枚、交換することが出来たのである。
そして、何の根拠もないわずかばかりの自信と達成感をみやげに足取り軽く帰路についたのだった。
まさかまさか、ここにきてまた恋ができるなんて思わなかった 二次元世界が大好き @poema
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