その12 大掃除をしよう

 師走、年末、大掃除。

 私は自室の整理だ。面倒だと思いつつやっているうちに身体が温まって、何だか気分も上がってきて。

「わ、懐かしい」

 埃を払った表紙には『ピーターパン』の文字。小さい頃に散々読んだ一冊だ。ページをめくる。全部ひらがなで今は逆に読みにくいけど、それがいい。

「お、それ懐かしいな」

 父だった。動いて暑くなったのだろう、Tシャツ一枚だ。

「母さんが休憩にしようって」

「風邪引いちゃうよ、それ」

「子どもは風の子」

 三十二歳の戯言を聞き流し、ふと思った。父はどんな子どもだったんだろう?

「ピーターパンってハッピーターンと似てるよな。主に語感が」

 うん、きっと大して変わんないな。絵本を置き、私は立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る