その11 ハッピークリスマス(承前)

 劇的だった。

 誤解なのだと松坂牛を紹介した途端、肉の入った桐箱を抱きしめ崩れ落ちた父。その姿にちくり胸を痛めつつ、わだかまりが解けたことにほっと息をつく。

 母が言った。

「今晩どうする? クリスマスだし、フライドチキンにしようと思ってたんだけど」

 父と顔を見合わせる。答えた声はきれいなユニゾン。

「すき焼き!」

 笑顔で頷く母。父がぼそり呟いた。

「さっさと食べてしまおう。万が一ということもあるしな」

 牛肉と万が一があるわけなかろう。

「じゃ、二人で買い出しお願いね」

 表に出るや、父が聞いてきた。

「何でも買うって前に言ったろ? ほしい物あるか?」

「七百円で買える物なら、何でも」

 ふと、空を見上げた。ふわり雪が落ちてきた。

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