その10 一つだけ確かなこと(承前)

「その、ごちそうさま」

 そそくさ席を立つ父に、私は何も声を掛けられない。

 あれ以来、父は大人しくなった。けれど二人の間はぎくしゃくしてしまっている。全部打ち明けようにも、今さら言い出しづらくて。

 俯く私に母が言った。

「どうするのが正しいかって、分からないよね」

 母にはすべて話してある。

「でも、一つだけ確かなことがあるよ」

 母を見た。

「さっちゃんがあんなことを言ったのは、お父さんを信頼していたからでしょ? 何を言っても許してくれるって」

 息を呑む。鼻の奥がつーんとした。

「それは正しいし、きっとどんな時でも変わらないよ」

 私は立ち上がった。母が微笑む。

「謝ってくる」

 と、玄関のチャイムが鳴った。松坂牛が届いていた。

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