その8 抽選会に行こう

「『まつざか』じゃなくて、『まつさか』なんだよ」

「まっさかー」

「……」

 冷視線を浴びせるも、まるでこたえる様子のない父。どころか小憎らしいほどのどや顔だ。

 デパートのエントランス。見慣れたクリスマスツリーの下には歳末大抽選会の行列。みな、お目当ては同じだ。一等・すき焼き用松坂牛。

 私はため息をついた。

「つまんないよ、それ」

「まっさかー」

 心臓強いな。

 と、順番がきた。抽選券を渡してガラガラを回す。ドキドキの瞬間。

 玉はすぐに出た。金色。けたたましく鐘の音が鳴り響く。

「大当たりーー! 一等、大当たりでーす!」

「お、まじで?」

 父が歓声を上げる。どよめきと熱気が広がる中、私は呆然と玉を見つめた。

「……まっさかー」

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