その5 肖像画を描こう(前編)
家族の肖像画――それが図工の宿題だった。
私は絵が下手だ。それこそ絶望的に。だが、やるしかない。
母を毒牙にかけるのは忍びなく、父を描くことにした。それも本人にバレぬよう、写真を頼りに。
完成は三時間後。目、鼻、口。よし、かろうじて人の顔だ。あ、耳がない。まあ、大勢に影響はないだろう。
やれやれと振り返った私は凍り付いた。父が絵を覗き込んでいた。
「これ、誰?」
泣きそうになった。そんな私に、父はにっと笑う。
「俺はこんなにイケメンじゃないぞ」
今度こそ、私は言葉を失くした。
「まだ途中ならモデルしようか? なんなら脱いでも」
「脱がんでいい」
父を追い立て、絵を見つめる。
やっぱり、耳を描こう。私は鉛筆を持ち直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます