その5 肖像画を描こう(前編)

 家族の肖像画――それが図工の宿題だった。

 私は絵が下手だ。それこそ絶望的に。だが、やるしかない。

 母を毒牙にかけるのは忍びなく、父を描くことにした。それも本人にバレぬよう、写真を頼りに。

 完成は三時間後。目、鼻、口。よし、かろうじて人の顔だ。あ、耳がない。まあ、大勢に影響はないだろう。

 やれやれと振り返った私は凍り付いた。父が絵を覗き込んでいた。

「これ、誰?」

 泣きそうになった。そんな私に、父はにっと笑う。

「俺はこんなにイケメンじゃないぞ」

 今度こそ、私は言葉を失くした。

「まだ途中ならモデルしようか? なんなら脱いでも」

「脱がんでいい」

 父を追い立て、絵を見つめる。

 やっぱり、耳を描こう。私は鉛筆を持ち直した。

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