モエル・タンストフロガ
フォークダンスなぞ踊ったことなんてなかったが、今はとにかくがむしゃらに踊りたかった。
家からこっそりと出かけるのは意外なほどに簡単であった。いつも夜の七時ごろに夕飯を食べ終え、それ以後は自分の部屋にこもりっきりになるし、両親はクソ87の影響で最近から、ゆみと距離を取るようになっていた。今日は疲れたから、早く寝るとだけ伝え、部屋に戻るふりをして、堂々と玄関から外へと飛び出した。
外出禁止のお陰で外の世界は信じられないほどに静まりかえり、
目的地に到着すると、意外にもたくさんの人がいたのに驚かされた。久しぶりにみる人の群れ、見覚えのある顔、聞き覚えのある声、これだけでものすごく嬉しくなった。長い時間孤独にさいなまれていたので、人が持つ暖かい気持ちがそばにいるだけでじんじんと伝わってくる。夜の暗さの中でもそれぞれの目には希望の炎が宿っていてキラキラ輝き、ゆみがここまでに無事にたどり着いたことを優しく迎えてくれた。
「ゆみ!!」春ちゃんがゆみを見つけて駆け寄ってきた。
「春ちゃん!!」ゆみは何かを言おうとしたが、全然言葉にならなかった。荒井君に告白した時とは違うまた別の熱を持った感情が、言葉による
「寂しかったね。こんな若くにこんなつらい経験をするとは考えもしなかったよ。ティーンエイジャーからフレンドを引き離すなんて
「あーっ!!フォークダンスの曲の入ったプレーヤーを家に置いてきちゃった」急にはっと我にかえったゆみが叫んだ。
「大丈夫よ。私がギター持ってきているから、デジタルじゃない、ライブ・アンド・ダイアレクト(生直撃)な唄をお届けするから!」春ちゃんがゆみに負けぬ大声で叫んだ。
「その前に、ほらあんたもくぅーっと一杯やんなさい!体が温まるから」春ちゃんは銀色に輝く小さな
ゆみはそれを受け取ると、何も考えずに飲んでみた。生まれて初めて飲むテキーラは炎を液体にしたような味がした。
「よーしじゃあ、そろそろ火を着火していいよー」春ちゃんが誰にともなく叫ぶと、10メートルぐらい先のほうで、小さな炎が生まれて、それが勢いよく大きくなる。先に集まっていたキャンプ部の男子がどこからか拾ってき、木製のタンス、木製のフロ、
ゆっくりと和太鼓がリズムを刻み始めると、ギターを手にした春ちゃんがカタリだした。
「今日はリベリオン(反逆)・ナイト来てくれて本当にありがとう。私はこの曲が大好きでずっと練習してきて、ラブソング的な歌詞も素晴らしいけど、私はまだこんな熱い恋をしたことがないから、少し
骨までとけるような テキーラみたいなキスをして
夜空も燃え上がる 激しいダンスを踊りましょ
私 遠い 夢は 待てなかった
最後はもっと私をみて 燃えつくすように
さよなら ずっと 忘れないわ 今夜の焚火のこと
焚火は燃え上がり スクールのグラウンドで燃え上がる
きらきら思い出が いつしか終わって消えるまで
あなたのかげ わたしだけのものよ
最後はもっとタイトに抱いて 息もできぬほど
このままずっと 太鼓よ鳴れ この世であなた一人
踊る生徒 燃えるタンスとフロが
リベリオン(反逆)・ナイト ずっとあきらめないで
燃えつくすように
これから ずっと忘れないわ 今夜の焚火のこと
サイコ(異常者ども)は もっと焼いて焼いて 息もできぬほど
さよなら ずっと
われらの
リベリオン(反逆)・ナイト ずっとあきらめないで
燃えつくすように
これから ずっと忘れないわ 今夜の焚火のこと
フォークダンスというよりどんちゃん
ゆみも全身を震わせてタヒチアンのように精一杯踊った。荒井君がこの場にいて、一緒に踊り、きつくタイトに抱いて、テキーラみたいに熱いキスをしてくれたら、そんな
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