第十三部「水の中の女神」第4話 (修正版)
それがどれだけ昔のことなのか、もはや誰にも分からない。
すでに記録と言えるものは何も無い
この国の文献と呼べるもので最も古いものはどれだろうか。
それが文明と呼ばれる頃か、社会と言える時代なのかも、今となっては分からない頃。
この国に一つの神社が作られた。
神の宿る場所。
人心をまとめる為。
〝神〟という形の無いものを、権力という〝人〟が形にした。
文化が社会に変わる。
〝
太陽神でもある
その神社を守るのは
その出所はどんな文献にも残されてはいない。
この国の〝
この国の神社の頂点。
だが、今となっては最初に作られた場所すら覚えている者はいない。
広大な土地に広大な建物。
そこから分社という形で全国に神社が作られていく。
そして
何度も戦乱の時代を経て、その度に
しかしやがて、大陸から一神教が入り込む。
それでも、いくつもの一神教がこの国で受け入れられていくのには時間が必要だった。
いずれ、権力者が宗教を盾にし始める。
古くからの
〝火の玉〟と〝水の玉〟。
文献には〝神からの啓示〟と記されている。
〝未来に産まれし
〝その
〝その
〝その
しかしその石には、あまりにも強い〝力〟が込められていた。
何者かがいた。
しかもそれは間違いなく〝
やがて総てを
やがて
しかし〝
いつしか
誰にも知られることなく、小さな山中に小さな神社を作り、
すでに、歴史にその名前は無い。
誰もその存在の意味を知らない。
やがて〝
しかし
〝
その〝血〟に子供を産ませないようにしてまで…………。
☆
祭壇に入り込んだ冷たい風が、火の粉を巻き上げながら高い天井に昇っていった。
風の音、
その中、
やがてその左右に座る
叫んだ。
「────やめてよ‼︎」
そして、頭を下げたままの
「〝
「いい加減にしなさいよ‼︎」
「何が
しかし、なぜか
それでも
「だから
その声は、本殿を揺らす。
「答えてよ‼︎
左右の
いつの間にか、
そして、その隙間に入り込むような
「……御自分の身の内を知り…………御使命を知って戸惑われるのも無理はないこと…………」
立ち上がった
「……問題は御座いません…………総て我らが準備をして参りました…………」
そして
「さあ……〝
直後、本殿のザワつく空気を沈めたのは、
天井まで揺らすその声に、
「
──…………
「くだらない」
その
「……私は
──……
それでも
「
それに
「……
「…………おめでたい人たち…………可哀想に…………」
その
そして、
板間に落ちた
しかし
二人の鋭い目が自分に向けられているのを確認しながら、
直後、
そして口を開く。
「…………私は……
「
「
「────頂点…………」
その
立ち上がり、
「……いい加減にしなさいよ…………」
その
そして、
「……
「その
叫ぶ
そして声を絞り出す。
「…………御決断を…………」
その時、
「……総ての中心は…………
その指に絡む〝水の玉〟が、怪しく炎の光を反射する。
「…………そんなもの………………」
その時、
唖然としながら、
そして小さく叫んでいた。
「────
そこには短刀を手に、
そして、その短刀を、
顎を押し上げられた
そして周囲に広がるのは、
「だから…………やめろって言ったのに」
☆
〝神の啓示〟によって
その
〝
それは結果的に
その中心には
表向きは天皇家の守護として朝廷に入り込む。
しかしその実際は、天皇を政権の座から引きずり降ろすこと。
そして当時から過激な思想の
時は過ぎ、慶応。
幕末の動乱の時代の中で、
当然血生臭い世相に巻き込まれ、京都御所も守れないまま、当時の
娘の
血の流れる正義を掲げながら、そこに本来の
明治維新直後、新しく作られたばかりの県からの願いで
しかしそれには〝理由〟だけでなく〝切っ掛け〟が必要だった。
それには〝代償〟も伴う。
それなりの覚悟が必要だった。
それでも
その後に、まるで身を隠すように
世の中は少しずつ明るい世相へと傾きつつあったが、戦争の機運が無かったわけではない。
それでも結婚から二年後には長男が産まれ、翌年には長女も産まれる。
しかしそんな頃、その日々に亀裂が生まれ始めた。
その夜も帰りの遅かった
「最近の子供たちはどうかな…………」
夜中に呼び出されることなどそうあることではない。
よほど緊迫した事情かと思ったところの拍子抜けする質問に、
「ええ…………毎日元気に育っておりますよ。お医者様にも大変元気な子供たちだとおっしゃっていただきまして…………」
しかし
「いかがなさいました? 何かお仕事で────」
「君のお父様は神社の宮司だったね。ご病気で亡くなられたと…………」
しかし
口を継ぐんだ。
「……
明治政府はいわゆる倒幕側。敗れたのは幕府側。
そして
幕府に
あくまで暗殺は
そしてそれは、
──……これが…………代償…………?
このままでは、そこから再び
しかし、
密かに動いていた女性がいた。
明治維新直後に
しかし嫁ぐ前に
その日は暑い夜だった。
複数の場所から同時に火の手が上がった。
炎の熱だけでなく、煙が家族と使用人の避難を阻む。
周囲を黒い煙に囲まれたまま、
──……これも…………代償…………
遠くからのガラスの割れる音。
炎の音。
悲鳴。
──……私は死んでもいい…………でも……………………
──…………この子たちは…………絶対に守る……………………
──……〝娘〟はいずれ…………〝水の玉〟を継承する〝血〟……………………
その時、寝室のドアがけたたましく弾け飛ぶ。
そのドアは
寝室の入り口に顔を向けた
そこに立ち塞がるのは
──……どこの神社から────
先に口を開いたのは
「……お前が
──…………何者…………?
「私は
そして、その片手に短刀を持ち、ゆっくりと足を進める。
──……この子たちだけでも…………
手の中に〝何か〟があった。
それは小さく、丸い。
──…………〝水の玉〟──────
そこには、細い鎖で指に絡まった〝水の玉〟。
「────そんな水晶など────‼︎」
そして、その〝水の玉〟から水が溢れる。
その水は瞬く間に
「────なんとしても‼︎」
そう叫んだ
そして体ごと
二人の
やがて、その水の塊は二人の
その光景を見た
「この……化け物が‼︎」
──………………幸せになりなさい…………二人とも……………………
その火事で生き残ったのは、二人の
しかも、その体は濡れていたという。
翌日、
嫁いだ神社は
しかし
亡き
それでも
理由は、未だに
──……あの二人の
密かに
やがて、
そこには、二つの水晶と
──…………
──……あの時の水晶…………なぜ〝水の玉〟が
☆
その声は空気を凍りつかせるには充分だった。
まるで温度が下がっててしまうかのような
そしてその
「……
それに対して
「…………あなたも……私を
「私は…………」
「……私は…………神なんか信じない…………」
そして
何度も過去の記憶で見た目。
経験したこともない過去の記憶で会っていた人。
──……………………おかあさん……………………
その口が動く。
「〝……目の前にあるものは運命ではない…………未来です…………よく見ておきなさい
やがて、
その目の前の
その真っ白い
その場の誰も動けないまま、
そのまま、支えのないままに床に倒れた
反射的に駆け寄った
しかしそれは水ではない。
床に広がる血の音。
「────
何度も何度も、繰り返し揺らし続けた。
「かなざくらの古屋敷」
〜 第十三部「水の中の女神」第5話(第十三部最終話)へつづく 〜
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