第十三部「水の中の女神」第3話 (修正版)
「…………
いつの間にか、その場に柔らかい風を感じる。
それでもそれは、湖面を削った冷たい風。
しだいにその空気は五人の間を走り抜けていく。
「地震の前に湖の温度が上がるのは伝説が作られる前からだったはずです。科学的な検証をされたわけではありませんが、おそらく地殻の影響でしょう……マグマとかの話になるでしょうし、私は専門外ですけどね。
「なるほど…………」
そう言った溜息混じりの
「
「あったんでしょうね」
即答した
「でも、そこまでは
決して怯えてはいない
迷いの無いその口調に、誰も何も返せないままに、再び風が強まる。
しかし、まるで何かに包まれたかのように、
その異様な雰囲気に気が付きながらも、
やがて、その場の空気を揺らしたのは、それまで話を黙って聞いていた
「……
誰も返さない。
返す必要もない。
「……伝説の真実って…………
そこに
「……もう
その
そして、
まるで走馬灯のように、
運命などという安っぽい言葉で
それ以上の言葉は見付からない。
しかし、今のこの感情が何なのか、
「…………良かった…………」
「え?」
反射的に返す
「……私は、
そして、その目から涙が零れる。
その涙の向こうに、柔らかい笑顔が浮かんでいた。
新興宗教の家に産まれ、人生を両親によって翻弄され、現在でもその両親の生死すら分からない。過去の歴史のどんな部分に自分が繋がっているのか、何も見えていない人生。宙に浮いてしまったような生き方を、
しかし、今は地面に足が着いたような感覚がある。
涙が気持ちを揺さぶりながらも、なぜか気持ちは落ち着いていた。
自分の中に、新しく誰かの存在を感じる。
──……私は…………いるべくして、ここにいる………………
そして、中にいるのは一人ではない。大勢の存在を感じた。それまで
しかし、
──……みんないる…………やっとその〝理由〟が分かった…………
──…………みんな…………
──……その中心が…………
「……
強い風がその言葉を遮ろうとするかのように
すると、
そして口を開いたのは
「……まだ……そのお話をするのは…………お早いかと…………」
そこに挟まるのは
「────戯言だ」
それは、熱かった────。
「いずれ────」
その
「……お話することになりますよ…………」
すると、動き始めたのは
すぐに
その瞬間、
その隣で
やがて、
「……
しかし、次の言葉が見付からない。
どんな時でも言葉を繰り出せなくては記者として失格。しかしこの時の
しかも、多くのことがまだ隠されている。
大事なことは、誰を信じるかだけ。
そして、それは
「車へ行きましょう……
「そうだね…………」
そう言って
「……ごめん。私も冷静じゃなかった」
そしてその言葉を、前を見たままの
「……だめだよ
その
車に戻ると、
ルームミラーに心配そうに視線を送りながらも、
『だからやめろって言ったでしょ』
──……やっぱり見えてた…………
「
『
「……そんなことを聞きたいんじゃない」
その
「
『よく聞いて
そこまで聞くと、
そして言葉を続ける。
「ごめんね
「……はい」
☆
しかし窓を見る限り事務所のある二階の明かりは点いている。
「まだいますよ。行きましょう」
そこで驚いた表情を見せたのは受付の
「
「……どうしたんですか
「
さらに声を荒げる
受付の椅子に座ったまま、
というより、言葉が出なかった。
相手が誰であれ、
すると、
「
「え? あ……ごめん
我に帰った
「急にごめん。初めましてだよね。
そして、
「私は
「
「それなら良かった。私も
「そんな……私は
「
その
そして
「こんな時間にいきなり押しかけちゃってごめんね。見た感じ
すると、
「いえ…………一週間くらい前から実家に行ってて……理由も教えてくれなかったし…………今夜は残っててくれって夕方に電話があって…………それで…………」
「一週間? そっか……相変わらず読まれてるなあ」
──……今夜押しかけることまで見えてたか…………
「何か…………あったんですか?」
そう言った
極度に他人との交流が苦手なタイプであることは
しかし今回に関しては
「私たちもよく分からないんだよねえ…………まあ実家に行ってるなら問題ないよ」
──……今回ばかりは例え実家でも不安だけど…………
その時、いつの間にか外に出ていた
「
そう言うと
「もう…………許しますよ」
その言葉に
そして
「
☆
それは
あの直後から意識は無い。
そして呼ばれたのは
久しぶりの姉達の姿に
二人は
「いつも威勢がいい割に、こんなトラブルを持ち込むなんて…………」
気性の穏やかな長女の
「
「……失礼いたしました」
そこに
「以前に……お会いした方ですね…………母上、何がありました…………?」
祭壇の前に横たわり、胸の上で両手を合わせる
「まさか母上…………あの石は〝水の玉〟では…………」
「さすがですね
古くから伝わる水晶の伝承は、すでに二人には修行を終えた時点で伝えてあった。
しかし
その水晶の一つ────〝水の玉〟が、目の前の
「どうしてこの方が…………
「それを知りたくてここに連れてきたのです。しかしなかなか見せてはくれぬ…………それでも〝理由〟は必ずあります」
そして、四人での
しばらくして、最初に反応を見せたのは
「……一人ではありません…………母上……多過ぎます…………」
「血筋が見えません…………いえ…………
──…………あり得ない…………
その時、
「…………私は……〝
目を見開き、片膝を上げたかと思うと体を
横たわる
その光景に
「母上! 惑わされてはなりません!」
その声を無視し、指に力を入れた
「……〝
再び
「母上!」
しかし、次の
「……母上から聞いていたぞ……〝
直後、叫んでいたのは
「────母上!
その姿に
そこに
「……
しかし、次の瞬間、
「〝あなた如きじゃ…………私には勝てないよ〟」
すると、
そしてその口が動く。
「〝我らは〝
その姿に、
──…………負ける……
「〝お前の大事な娘は……我らに与することになる…………産まれる前から決まっていたこと…………その為に命を与えた…………〟」
そしてそれは突然。
同時に
二人とも意識はない。
そのまま、その夜の
──…………まさか…………
二人が目を覚ましたのは翌日の朝。
そのまま、栄養が枯渇したような
それまでの間、
☆
もうすぐ日付が変わろうとする頃。
先に後部座席から降りた
「嫌な結界…………」
続いて降りた
「……
「だろうね」
その
「ごめん……こっから先は何があるか分からないから…………」
すると、
「──待ってます。
──……私は、私の役目を果たせばいいんだ…………
どこかから湧き上がる使命感が、
その目は、どこか力強い。何の迷いも無かった。
「……分かった」
先に口を開いたのは
「行こう……
そして二人は歩き始める。
大きな鳥居から、結界は始まっていた。
しかし二人の足には迷いがない。
まるで空間を歪ませるような威圧感が広がる中で、参道を歩きながら口を開いたのは咲恵。
「結界なんて気持ちしだい…………催眠術みたいなもの…………見えない壁なんて存在しない」
その
まるで誰かに守られているかのような、包まれる感覚。
本殿の入口横には、深夜だと言うのに
二人が本殿前の階段を登ろうとした時、目の前の木戸が音を立てて開かれた。その両側に立っているのは巫女姿の
二人は鋭い目付きで
やがて、
「母上、おいでになりました」
そして板間に膝を着く。
反対側で
「好きな感じじゃないな」
そして二人が木の階段を登ると、広い本殿の奥の祭壇が視界の中へ。
炎の作り出す影が激しく揺らめいていた。
祭壇前の
祭壇に近付くにつれ、少しずつ空気の濃さを感じた。
そして、
その人影は
「お待ちいたしておりました…………」
その声に
「総てを知る…………その御覚悟は御有りですか?」
しかし、それに返した
「その前に、
──…………
間違いない。
それは
反射的に
「
そして、ゆっくりと
「もう一週間になりますか…………
「一週間⁉︎ まさか…………私は何度も電話で────」
「さすがは我が娘…………この状態でも
「……そんなバカなことが…………」
「
外からの強い風が本殿の中に入り込み、祭壇の炎を大きく揺らした。
それに合わせるように火の粉が舞う。
一粒一粒が辺りを照らした。
その光に照らされた
──……
そして
「…………いい加減にしてよ…………だから宗教なんて嫌いなんだ…………よくも目に見えないものをそこまで信じられる…………」
背後から、小さく板間を
その音は
次に声を上げたのは
「……どうしても、
それに、
「…………
「だからこうして来たのだろう? 私に勝てるのか?」
それはもはや
その
────────⁉︎
「…………
まるで我に帰ったかのような
「……間違ったところを見ちゃダメだよ……〝
その言葉に
「
そして、
「……いいでしょう…………お話しします…………」
「かなざくらの古屋敷」
〜 第十三部「水の中の女神」第4話へつづく 〜
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