第22話 偶像崇拝に生かされる

これは絶望の淵にあったひとつの命の話

価値の有無は本人の意識に左右されている


彼女はすべてを絶ちたいと願う子供だった

友も仲間も助けてくれる人もいないのに

責任なしに生を求める言葉だけ飽和する


「それならここに生きている必要はない」


何度も見下ろした中途半端な遠さの地面

何度も履き直した靴と何度も吐いた痕


「あなたに出会うまでは」

あなたは言った「俺がいる」


それが自分に向けられたものでなくても

民衆に放った言葉でなくてもよかった

彼女の心は吹き荒みそのぐらい飢えていた


誰かがそばにいるという簡単なうわ言

そんな些細な事にひどく飢えていたから


その言葉に希死念慮すら安易に流されて

その言葉をまるで神の言葉のように信じて

それから 数年 十数年 数十年 今尚


偶像崇拝は 彼女の 人生を引き伸ばし

偶像崇拝は あらゆる技術を身に付けさせ

偶像崇拝が 彼女に あらゆる思考と感情

そして あらゆる表現方法を 使わせた


そして 今この瞬間 動く心臓もまた

やはり偶像崇拝に動かされているようだ


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る