第16話 T-falのある生活
すこし前に友人宅でT-faLをみた。
便利で手軽でいいなあと羨み、悩みに悩んで買ってから、かれこれ2ヶ月とすこし、T-faLのある生活をしている。
「簡単!時短!他のことしてるあいだに湯が沸く!」というところが魅力として非常に大きいT-falを活用するということは、すなわち、かちりとスイッチを入れて、沸くまでの時間を優雅に有意義なことをして過ごせるということだ。
窓を開けて太陽光を浴び、空気を入れ替えるとか、布団を畳むとか、トーストを用意するとか、今日読みたい本を選ぶとか。
だから私のような、そもそもT-faLのスイッチを入れ忘れるような人は、そのメリットはなかなか享受しにくかったのだ。運良く忘れなかったとしても、なぜかスイッチを入れるのが最後になってしまう。
スイッチを入れてから、カップとコーンスープのもとを準備して待てばいいのに。カップとコーンスープのもとを準備してから、スイッチを入れてしまうのだ。
結局のところそういうありさまなのだから、なにもすることがなく待っていることになり、これではまったく時短にならない。もちろん、やかんで沸かすよりも総計では時短になっているのだろうが、体感時計では時短ではない。
そもそもこの話を書こうと思い立ち、いざ書き始めて、とうの昔にかちっと沸騰した音がしたはずなのに、それを手に取らずにスマホを惰性でいじりつづけ、気づいた頃には湯が冷めているようなパッパラパーにはどうにも相性が悪い。
T-faLが私に向いてないのではなく、私がT-faLに向いていないのだとおもう。そう、今この瞬間も、ゆっくりと湯が冷めていっているのだ。そしてカップとコーンスープの素を用意しただけで、スプーンもなければ素をカップに注いでもいないので、やはり時短ではない。
時短というのは要領のいい人ができるスキルに違いない。嗚呼、時短を活用できるような人間になりたかった。
「お腹…減ったなあ」
そうして何度目かのスイッチを入れた。
時短とはいったい何だったんだろうか。
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