第46話 付き合った記憶はございません その②
突如予想もしなかった衝撃的な爆弾発言が飛び出し、俺も野郎どもも一瞬にして固まってしまう。
しかしその直後、さらなる衝撃が俺を襲う。
――なっ⁉︎
突然右腕が彼女の手によって掴まれたかと思うと、「そうやんなっ」と可愛げのある笑顔を向けてきた相手が、あろうことか俺と腕を組んできたではないか!
その密着具合、もはや溺愛でラブラブのカップル。
俺の腕をまるで抱き枕のごとくぎゅっと抱きしめてくる彼女は、おそらく自分よりも先輩なのだろう。
クラスメイトの女子たちとは違うどこか大人びた雰囲気とその発育具合の良さは、制服越しでもむにゅっとした柔らかい感覚で否が応でも伝わってくる。
しかもよく見るとこの人なかなか……いやめっちゃ可愛いな!
思わず関西弁が飛び出してしまうほどの綺麗な女の子がいきなり腕を組んできたわけなのだが、俺の心境はハッピーどころかますますカオス極まっていた。
だいたい俺には
つまり彼女なんてどう考えたっていないはずなのだが、これは一体ドウイウコトダ?
パニックで硬直したまま右腕だけラッキースケベな柔らかい圧力を感じつつ、代わりに目の前から感じるのは今にも殺されそうなほどの激しい圧力。
そろそろ『ドッキリでした!』と書かれた看板を持ったイタズラ好きの
ああなるほど……そういうことか……
僅かに残っていた冷静な思考が、彼女の口からこぼれ落ちたヒントによってこの状況を推理した。
どうやら今の俺は、彼女を助けるヒーローとして偽彼氏を演じる役割を与えられたらしい。
いや何だよこの無茶振りはっ! と思わず心の中で叫んでしまった俺だったが、必死に助けを求めている女の子を見捨ててしまうほど根性は腐っていない。
などと走馬灯のようなスピードでそんなことを考えていたら「お前、ほんまに彼氏なんか?」と再びこわーい声音が耳を貫く。
けれども俺はぐっと拳に力を込めると、自称元先輩だと言い張っていた男二人を睨み上げて、すっと大きく息を吸った。
そして――
「そ、そうでっスケド! ナ、ナニカモンクで○△@$……」
ヤバいッ! 怖すぎてまったく喋れないっ!!
あまりの恐怖にカタコトどころか自分でも理解不能な言葉をつい発してしまった俺。
けれども相手からすればこれもまた予想外の展開だったのだろう。俺のことを睨みつけていた男二人の表情がみるみるうちに困惑していく。
「なんやねんコイツ、日本人とちゃうやん」
「…………」
いやあの、生粋のジャパニーズですけど?
あろうことか留学生とでも勘違いされてしまったのか、意思疎通を取ることができないと判断されてしまった俺。
すると今度は面倒くさそうな表情を浮かべた男たちが、「あんま日本人からかうなよ」とよくわからない脅し文句だけを言い残し、自分たちに背を向けてそのまま立ち去っていく。
そして後に残されたのは、ヒロイン並みに綺麗な女子生徒と、国籍不明となったヒーローが一人。
「あ、あの……ごめんやで。なんかややこしいことに巻き込んでもうて」
「いや、はぁ……」
助けてもらった喜びよりも俺の先ほどの扱いに哀れみを感じてしまったのか、何やらちょっと気まずそうな感じで話しかけてきた彼女。
けれども生徒会室での一件から疲れっぱなしだった俺はもはやそれに突っ込む気力さえ起きない。
結果返事の代わりにじーさんみたいなため息だけを返すと、そんな自分を見て何故かプッと吹き出した彼女が再び言う。
「そうや、助けてもらったお礼にこのままほんまにデートでもせえへん?」
「えッ⁉︎」
俺のことをからかっているのか、突然そんなことを言い出して太陽みたいにニコッと笑う彼女。
なんだがどこかで見たことある笑顔だなぁ、なんて思いながら見惚れてしまいそうになった俺だったが、ハッと我に返ると慌てて首を振る。
「せ、先輩みたいな綺麗な人が、そういうことを冗談で言ったらダメだと思いますっ!」
動揺していたせいで、つい勢いのまま珍しく真っ当なことを口にする俺。
すると自分の発言に今度は相手の方が「え?」と目をパチクリさせたかと思うと、「君って、けっこう真面目な男の子なんやね」と何やら感心げな声で呟く。
「うちも冗談のつもりで言ったわけちゃうよ。なんか面白そうな子やし、君とやったら遊びに行ってもいいかなって」
もちろんお礼も兼ねて晩ご飯ぐらいおごってあげるで、と今度は頼りがいのある姉貴肌な一面を見せてきた彼女。
けれどもそのぱっちり猫目にはどこか少女のような可愛らしさも詰まっていて……って、危ない危ない! 普段から真理愛さんのような美しい人を見ていなければ、一瞬にして心を持っていかれるところだった。
そんなことを思った俺は『チカンあかん!』の駅のポスターみたいにバッと右手を突き出すと、「いえ、結構ですッ」とテンパったまま声を発した。
「その代わり、もっと自分のことを大切にして下さいっ!」
「……」
どうやら思考の疲れがすでに限界を突破していたのか、先輩相手にクソ生意気なことを言ってしまった俺はそのまま慌てて本日二度目の「し、失礼しました!」を口にすると、心晴のような動きでスタコラささっとその場から逃げ去っていく。
「あ、ちょっと君!」と背後からは偽彼女さんの声が聞こえてきたが、俺はそんな声もあの柔らかい感触からも逃げるかのようにさらに足を早めた。
とりあえず、今日というはちゃめちゃでメチャクチャな一日を経験してわかったことは、ただ一つ。
この学校では真理愛さん以外の先輩とは関わらない方が身のためだということだ。
シェアハウスの相手は幼馴染みの三姉妹。そしてその姉が実は元カノ。 もちお @isshi
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