第41話 裏・やはりいつもの日常です。
私こと
だって……だって…………
「まさ君……」
自分の席から窓の外を眺めながら、思わず大好きな人の名前を呟いてしまう私。
その瞬間この胸の中で弾けるのは、しゅわっとした炭酸みたいなトキメキ。
そう、以前公園でまさ君と二人っきりで話した時、ついに私は彼のことを名前で呼べる権利を再び得ることができたのだ!
まさ君、まさ君、まさきゅん……と一人心の中で彼のことを呼ぶ練習をしていると、ふいに耳元で声が聞こえてくる。
「なんか最近の真理愛ちゃん、嬉しそうやんな」
「え?」
突然そんな言葉をかけられて驚いた私は、慌てて声がした方へと視線を移した。
すると自分の席の隣には、クラスメイトで仲の良い
「もしかして良いことあったん?」
「い、いえ特にそういうわけでは……」
私は慌てて真澄ちゃんに向かって小さく首を振ると、動揺を悟られないように静かに深呼吸をする。
ふー危ない危ない……いくらまさ君のことを名前で呼べるようになったのが嬉しいからって、みんなの前ではいつも通りの自分でいないと。
そんなことを思い一人心を落ち着かせていると、今度は眼鏡をキラリと光らせた早乙女さんが言う。
「あ、わかった! もうすぐ合宿の日が近づいてきたから喜んでるとか?」
「……」
でしょでしょ? とさも名探偵が犯人を言い当てたかのようにぐいぐいと尋ねてくる早乙女さん。
するとそんな彼女に対して、真澄ちゃんが呆れたようにため息をつく。
「あんたな、べつに真理愛ちゃんまだ参加するとも言ってないやろ」
「えー、だって今週末には参加人数確定させないといけないし」
そう言ってわざとらしくぶーぶ―と頬を膨らませる早乙女さん。
そういえば、合宿は生徒会が主催すると前に言っていたので生徒会長の彼女はおそらく何かと忙しいのだろう。
ここは参加するしないに関わらず早く返事をしてあげないと、と一人悶々としながら悩んでいたら、パンっと手を合わせた早乙女さんが楽しげに言う。
「合宿はほんとにいいよ〜神嶋ちゃんっ! とりあえず勉強ほどほどに、高校生も中学生もみんな一緒になって昼はバーベキューに夜は花火もするし、それに
「……恋愛成就?」
不意に早乙女さんが口にした言葉に、思わず反応してしまった私。
すると自分が興味を示したことが嬉しかったのか、「そうそうっ」とまたも早乙女さんが怪しげに眼鏡を光らせる。
「まあ北新学校の生徒が昔勝手に作ったんだとは思うけど、夕暮れ時に琵琶湖に浮かぶ鳥居を二人きっりで見ることができたら、その二人は湖の深さのような愛で結ばれるって話しがあるのよ」
愛を琵琶湖の深さで例えるなんてシュールだよねぇ、と何やらくつくつと笑う早乙女さん。
一人盛り上がる彼女に、私と真澄ちゃんはただ無言で彼女のことを見つめる。
恋愛成就はちょっと……いや、かなり気になるかも。
合宿に参加すれば滋賀の美味しい郷土料理をたくさん食べれるかもとは期待していたが、まさかの思わぬ美味しい情報に一人心の中で喜ぶ私。
そういえばまさ君は合宿に参加するのかな? なんてことをワクワクとしながら考えていたら、ため息を吐いた真澄ちゃんがその赤茶に染まった綺麗な髪をかきながら言う。
「うちはそんなん興味ないけどなぁ。べつに彼氏が欲しいとか思わんし」
「そうなんですか?」
真澄ちゃんの意外な言葉に、私は思わず目をパチクリとさせる。
「うん。だって友達とおる方がぜったい楽しいやん! それにうちに近づいてくる男って、だいたい下心持ってる奴が多いねんな」
「あー、それは野郎どもをたぶらかす美貌とそんな発育ばっちりのスタイルしてる真澄が悪いね」
すかさずそんなツッコミを入れる早乙女さんに、「うるさいなっ」とちょっと恥ずかしいそうに顔を赤くしながら怒る真澄ちゃん。
まあ確かに真澄ちゃんぐらい綺麗な人だったら、男の子からすれば誰だってお付き合いしたいと思うだろう。
真澄ちゃんと会っちゃったらもしかしてまさ君も……と不意にそんな不安が頭をよぎった直後、真澄ちゃんがその大きな瞳を私に向けてきた。
「ってか真理愛ちゃんって、好きな人とかおるん?」
「…………」
いません。とは答えたものの、不自然に少し間を開けてしまったことがいけなかったのか、何やら目の前でニヤリと怪しげな笑みを浮かべる二人の友人。
「真理愛ちゃん、さすがに今の嘘はアカンわ」
「そうそうっ、それぜったい掘ったら面白いネタ出てくるやつ! というより神嶋ちゃん、もしかしてもうその人に掘られ……」
このアホっ! と突然真澄ちゃんにパシンと頭を叩かれて話しを止められてしまった早乙女さん。
そのままいつもの掛け合いが始まるや否や、私はそっと逃げるように窓の外へと視線を移す。
そして心の中で、合宿のことについて考えてみた。
北新高校に伝わる恋愛成就……これはもう参加するしかないでしょっ!
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