第36話 お仕置きはまた今度で。

 その後、俺と朱華あやかはルクアで待ってくれていたクラスメイトたちのところへと戻り、朱華は普段俺には決して見せない素直さでぺこりと謝って今回の騒動については一件落着となった。


 そしてそのままの流れでいざみんなで昼飯を食べに行こうということになったのだが、俺はというとあの手この手で断り続けて、最後は得意の「ちょっとお腹が……」作戦で見事に一人抜け出すことに成功。

 その足で建物からも抜け出した俺は、朱華を見つけることができたとこっそりと連絡を取っていた心晴こはると合流したのだが……


「それで、お前は何であそこにいたんだ?」

「いやー、それは……」


 あははっと何やらぎこちない笑みを浮かべ、そわそわと目を泳がす年下の幼馴染み。

 自分たちが今いるのは大阪ではこれまた定番の待ち合わせ場所の一つという、阪急梅田駅にある紀伊國屋書店前のビッグマン広場。

 その名称通りビッグマンと名のつく巨大モニターの下で、俺はただ今、事情聴取中である。

 もちろん問い詰めている案件は、どうしてあの場所あのタイミングで心晴たちが同じ場所にいたのかということについてだ。

 まあ聞かずともイタズラ好きの心晴のことなのである程度察しがつくのだが、ここは今後の対策も兼ねて本人の口から言質をとっておきたい。


 けれども俺の取り調べに「う、ウチはちょっと買い物で……」と相変わらずぎこちない口調で言葉を濁し、虎マークの入ったキャップ帽のつばをくいっと深くする心晴。……ってかこいつ、いつの間にタイガースファンになったんだよ。


「そういえば……真理愛まりあさんはどうしたんだ?」


 ふと気になったことを口にして、俺は辺りをチラリと見回した。

 形はどうであれ今回無事に朱華のことを見つけ出し問題を解決することができたのは、真理愛さんのあの後押しの言葉があったからこそ。  

 だからちゃんとお礼を伝えたいと思ってこうやって心晴と合流したのだ。

 それに今日の真理愛さんの姿をもう一度この目に焼き付けないといけないし、と真面目な顔をしながら一人心の中でワクワクしていると、何やら「あー」と心晴が間の抜けた声を漏らす。


「まり姉やったらどっかに行ったで。なんか寄るところがあるって」

「……」


 何だよそれ、と思わず心晴に対してジト目を向ける俺。

 けれどもこやつのこのマヌケな顔を見る限り、おそらく嘘をついているわけではないのだろう。

 これ以上聞いても有益な情報が得られないと思った俺は、小さく咳払いすると再び事情聴取を続ける。


「じゃあさっきの件に話しを戻すが……」

「あっ、ウチ今から佳苗かなちゃんと約束あったんや!」


 大根役者も驚く演技力で心晴は手をパンと叩いてそんなことを言い出すと、「ほなまたっ」と今度は関西弁を丸出しにして一人スタコラさっさと逃げていくではないか。

 おい待て! と俺が声を発した時にはすでに彼女の背中は人ごみの中へと消えていて、相変わらずサルのように逃げ足の早い相手に俺は呆れてため息をつく。

 そしてふと頭上を見上げると、大きなモニターでは宝塚歌劇団のCMが流れていて、華やかな舞台の上ではかつて愛し合った二人が思い出の場所で再会を果たすシーンが流れていた。


「寄るところ……か」

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