第33話 託された想い
クラスメイトたちに急かされて、慌てて
「くそ……あいつマジでどこに行ったんだよ」
ルクアの施設内で行ったり来たりを繰り返し、もはやここは本当にダンジョンじゃないのかと思うほど彷徨い続けている俺。
さっきから朱華に電話をかけても繋がらないし、LINEを送っても既読さえつかない状況だ。
もういっそインフォメーションカウンターで呼び出しでも頼んでやろうかとも一瞬考えたのだが、そんなことをすれば俺の身にさらなる悲惨な展開が待ち受けていそうな気がするのでその考えはすぐにやめた。
「くそっ」と再び小さく声を漏らし、あてもなく足を進める自分。
すると焦る気持ちで周りが見えなくなっていたせいか、通路の角を曲がろうとしたその時――
「きゃっ!」
「うわっ」
同じように角を曲がってきた相手の存在に気付かず、俺は思いっきりぶつかってしまう。
そのせいで、相手の女性がその場でドサッと尻もちをついてしまった。
「す、す、すいません! ほんとにごめんなさいっ!!」
俺は動揺したまま慌てて謝罪をする。そして倒れてしまった女性を起こそうとしてすぐに右手を伸ばした。
「だ、大丈夫ですか…………って、か、
相手が俺の手を握って立ち上がった直後、目の前にいる人物の顔を見て俺は思わず声をあげる。
なぜならそこにいたのは、あろうことか
目的の人物とは違うが、これぞまさに運命の再会。
しかもどういったわけか今日の真理愛さんは眼鏡をかけて普段滅多に穿かないデニムパンツを穿いているではないか。
まるで変装にも近いその大胆なイメチェンに、思わず違う意味でドキドキと動揺してしまう。
「ど、どうして神嶋さんがここに……」
こちらの問いかけに、「えっと、そ、それは……」と何故か俺以上に動揺しながら声を漏らす真理愛さん。
そしてそんな彼女が言葉を探すかのようにあたふたと視線を彷徨わせていると……
「まり姉ちゃーんっ!」
「「ッ⁉」」
再び聞き覚えのある声が聞こえてきて、俺はハッとして顔をあげた。
「……
「うげっ!」
駆け寄ってくるなり俺の姿を見て、何やらバツが悪そうな表情を浮かべる心晴。
そんな彼女の姿とそしてこの状況に何だかすごーく嫌な予感がするのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
ここはもう彼女たちにも協力してもらい早く朱華のことを探し出そうかと考えていたら、先に心晴の唇が動く。
「そ、そのさっき下であや姉とすれ違ったんやけど……」
「朱華と会ったのか?」
思わず強い口調で聞き返せば、「う、うん」とビクリと肩を震わせる心晴。
「会ったんやけど、その……なんかちょっと悲しそうやったというか」
泣きそうな顔しとたっていうか……ともにょもにょと言葉を付け足す彼女。
その言葉を聞いて、思わずドクンと心臓が嫌な音を打つ。
てっきり朱華は怒って飛び出したのかと思いきや、どうやら事情は違うらしい。
「なんかあったんまさ兄?」と今度は心晴が不安そうに尋ねてきたのだが、俺は黙ったまま何も言葉を返せない。
もはやこんな事態になってしまっているのなら、俺が追いかけるよりも、ここはもう事情を説明して心晴たちに頼んだ方が……
――まさ君、追いかけてあげて。
不意に耳に届いた言葉に、「え?」と俺は思わず声を漏らした。
そして沈んでいた顔を上げれば、目の前にいる真理愛さんが真っすぐな瞳でこちらを見つめている。
「朱華ちゃんのこと、お願い」
「……」
優しい口調ながらもその凛とした声音に、俺の心の中にあった不安がいつの間にか和らいでいく。
ああそうだ……俺はいつもこの人に……
じわりと胸の中に広がる暖かいものを感じながら、俺は「わかりました」と力強く返事をすると、二人に背を向けて再び走り出す。
追いかけながら頭の中に響き続けるのは、さっき俺のことを名前で呼んでくれた真理愛さんの声。
もう二度と呼んでもらえることはないと思っていたけれど、あの声はたしかに昔と同じままだった。
「真理愛さん……」
無意識に彼女の名前を口にして、はやる思いを両足に込める。
今の自分が朱華に会ったところで何ができるかなんてわからないけれど、でもこの約束だけは裏切れない。
だってあの人は、自分のことを頼ってくれた真理愛さんは……
――俺が初めて恋をした人なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます