第32話 すれ違い
再び映画館に戻ると、ロビーのところでは顔の見知った5人がすでに集合していた。
「おっ、抜け駆けデートしとった二人がやっと戻ってきたやん」
クラスメイトたちと合流するなり、何やらニヤニヤとした表情でそんなことを言ってきたのは
そしてそんな彼女に対して「べ、べつにそんなのじゃないからっ!」とラブコメのヒロイン並みにベタな嫌がり方をするのは
「ふーん、そういうわりには朱華顔まっ赤やけど」
「これは怒ってるからっ!」
「……」
夏川さん、それ以上コイツをイジるのはやめてくれ。後で俺の方に流れ弾が飛んでくるから。
そんなことを思いながら夏川さんのことをジト目で睨んでいると、俺の隣にやってきた
「
「い、いや俺はそんなつもりじゃ……」
だからその急に顔を近づけてドキッとさせてくるのはやめてくれよ、この眼鏡イケメン。
「まあでも映画は俺らが一番面白かったけどな。なあ
肩を組んだまま雨宮がそう言うと、「確かにそうやな」と映画終わりでも相変わらず爽やかに笑う
するとそんな彼らに対して、「えー」と夏川さんが何やら不満げな声を漏らす。
「いやいやウチらの映画のほうがぜったいオモロかったって! だって虎っちもけっこうウルってなってたもんな」
「……ウス」
脱パリピとなった夏川さんにそんなことを言われて、バシッと背中を叩かれている大男。
ってかなに
そのイカつい見た目で女子から変なあだ名で呼ばれているギャップに思わずプッと吹き出しそうになるも、俺はといえばそんな相手から『しょうもん』と呼ばれているので、現実は残念ながらイーブンだった。
「まっ、ウチらが映画楽しんでる間に誰かさんはプレゼント買ってもらって楽しんでたみたいやけど」
「だから違うってば」
そう言ってマグカップの入った紙袋をサッと後ろに隠し、頬を膨らませながら上目遣いに友人のことを睨みつける朱華。
これも精神に悪影響を及ぼすあのエイリアン映画のせいだろう。
そんな朱華のことが普段よりもちょっと可愛く見えてしまったので、俺は慌てて心の中で自分に向かってビンタを放つ。
すると空気を読める橘が、さり気なく話題を変える。
「そろそろいい時間やし、昼飯食べに行かへん?」
「そうやね、わたしもちょっとお腹へっちゃったし」
橘の言葉に安定のフォローパスを入れてくれる
「そうやなっ、ちょうどこの下に美味い串カツの店あるし!」
「えー串カツは乙女的にちょっとなぁ」
夏川さんの発言に、わざとらしくぶーぶーと文句を言う同性の二人。
これはマズい……
勝手にわいわいと盛り上がり始めたクラスメイトたちを見て、俺は嫌な汗を額にたらりと流す。
本当であればコイツらと合流した時点で、「じゃ、俺はここでアディオスっ!」と颯爽と去っていく予定だったのだが、足止めを食らっているどころか肩まで組まれちゃってるし。
この調子で昼飯まで一緒に食べる流れになってしまうと、それこそボッチ万歳の休日プランが丸つぶれになり、午後から訪れる予定だった梅田のアニメイトにも行けなくなってしまう。
「萩野は? なんか食べたいもんとかある?」
「え、お、俺は……」
いつものステルス能力を発揮して雨宮から抜け出して完全に空気と化していたはずが、気遣いの達人である橘から急に意見を求めれてしまいつい狼狽えてしまう。
そして動揺したままチラリと斜め前方を見てみれば、視線が合った瞬間ふんっと顔を逸らしてくる朱華。
……まあ、やっぱそうなるわな。
予想通りの反応を見せてきた幼馴染みに、俺は小さくため息をつく。
「いや、俺はそろそろ……」
「えっ、萩野くんまさかここで帰んの⁉︎」
驚いた声を上げて、ぐっと俺に顔を近づけてきた夏川さん。……とりあえずその目力がマジで怖い。
けれどもマスカラとアイラインで強調された視線にいつまでも怯えているわけにもいかず、俺はゴクリと唾を飲み込むと男らしく再び言う。
「だ、だってほら……俺はもともと参加する予定じゃなかったし……」
それに……と僅かに声を裏返しながら言葉を続ける俺は、再びチラッと朱華の方を見る。
「お前だって俺がいない方が楽しめるだろ」
「……」
アンタも来るつもりなの⁉︎ と嫌がられることが目に見えていた俺は、ここは事前に被害を食い止めようと思いそんな言葉を口にしたのだが、何故か黙り込んでしまう相手。
そして直後朱華は唇をきゅっと小さく噛み締めたかと思うと、そのまま顔を伏せる。
「……何よそれ」
不意に呟かれた言葉が、賑やかだったはずの空気にヒビを入れた。
いつもとは違うどこか沈んだような冷たいその声音に、「あ、朱華?」と隣にいる夏川さんも少し狼狽える。
けれども友人の呼び掛けにも反応しない彼女は、突然俺たちに背を向けたかと思うと、そのまま一人勝手に歩き始めた。
「お、おい朱華っ⁉︎」
突然の展開に思わず彼女の名前を呼ぶも、そんな声から逃げるかのように足早に去っていく相手。
代わりに訪れたのは、時が止まったかのような沈黙。
何もできずに思わず固まっていると、そんな自分に向けられるのはクラスメイトたちからの「あーあ」といわんばかりの呆れられた視線だ。
「おい萩野、追いかけないとマズイんちゃうか?」
「……」
雨宮の言葉を聞いても呆然としたまま突っ立っていると、今度はそんな俺のことを荒井がぬっと見下ろしてくる。
「しょうもん……行かんのか?」
「さっ、サーイエッサっ!」
ドスの効いた声が鼓膜に突き刺さった瞬間、やっと我に返った俺は荒井に向かって思わずビシッと敬礼のポーズを取ると、そのまま朱華の後を追って走り始める。
そして一段飛ばしで階段を降りながら、心の中で叫んだ。
あぁもうっ、どうしてこうなった⁉︎
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