第30話 裏・これも私の休日です。その①
私こと
だって……だって…………
『だ……だからそこは、ダメだってばぁぁっ!』
『ひゃぁぁんっ!』と暗闇の中であまりにも不埒な声が大音量で響いた瞬間、私の肩が思わずビクリと震える。
い、いったいこれは……
スクリーンの中で繰り広げられているあまりに過激で過剰な演出に、もはや私の思考回路は崩壊寸前だった。
自信たっぷりにまさ君たちが観る映画がわかると主張してきた妹の言った通り、私たちは今、彼らと同じ映画を観ているのだが、その内容がエグいのグロいのえっちぃのって……
ま、まさ君たちこんなの見てほんとに大丈夫なのっ⁉︎
思わず、多感な思春期真っ只中である二人のことを心配してしまう私。
そして右隣に座る妹にもこれは悪影響なのではと、「こ、
いつもの自分ならそれを見て迷わずポップコ―ンに手を伸ばすところなのだが、今は食欲とは違う欲をジンジンむずむずと乱されてしまい、私の心はそれどころではなかった。
これは一刻も早くこんなところから逃げなければ! とさっきから心の警報器のほうも大音量で鳴っているのだが、さすがにこの子たちを残して自分だけが一人途中退出するわけにもいかない。
それにこれもまさ君の趣味を理解するためと、私は一度ぎゅっと力を込めて目を
するとその直後、そんな自分の視界にさらに衝撃的なものが映った。
――なっ⁉︎
スクリーンの手前近く、そして自分たちがいるちょうど前方辺りのシートに座っているまさ君の身体に、いつの間にか
それはもう、私にとって憧れだった彼の肩にこてんと頭を乗せるかのように。
いやいやいや、暗闇の中だからそう見えるだけかもしれない! と私は慌てて正気を保とうとするも、さっきからスピーカー越しに聞こえてくるヒロインの
――大丈夫やって! 暗いとこで二人っきりになれば勝手に盛り上がってくっつくから!
「ッ⁉︎」
嫌なタイミングで昨夜心晴ちゃんが言っていた言葉を思い出してしまい、私は思わずゴクリと唾を飲み込む。
まさか中学生の心晴ちゃんが、水面下でこんなにも過激でキケンな計画を進めていたなんて……
「はぁぁ……」
やっと映画が終わって部屋を出るなり、私は両手で顔を覆うと恥ずかしさをありったけ吐き出すかのように大きくため息をついた。
スクリーンに写されていた映像もさることながら、暗闇の中でやけに怪しい動きをしていたまさ君たちのこともずっと気になっていたので、すでに精神的にはヘロヘロだった。
今でも脳裏に焼き付いてしまっているそんな衝撃映像たちを少しでも忘れようと小さく首を振っていると、隣で残ったポップコーンをパクッと口に入れた心晴ちゃんが言う。
「うーん、あんな中途半端な見せ方するぐらいやったらいっそ全部ポロリした方がオモロかったのに」
「ッ⁉︎」
ポロリってなに? どういうこと??
世間話でもするかのようにサラッと爆弾発言を落としてきた心晴ちゃんに対して、私は思わずぎょっと目を見開く。
だいたいまさ君にそんな危険なシーンは見せられないし、それに他の女の人のポロリなんてぜったいに見てほしくない!
それだったらいっそ自分が……と変な映画を見てしまったせいかちょっと思考がおかしくなっていることに気づき、私は慌てて我に戻る。
そして一度大きく深呼吸をすると、今度は話題を変えることも含めて心晴ちゃんに気になっていたことを尋ねてみた。
「でも心晴ちゃんよくわかったね。まさ君と朱華ちゃんがあの映画を観るって」
まさ君が映画好きだということは知っていたけれど、てっきりみんなが好きそうなアクション映画とかSF映画ばかり観ているものだと思っていた。ましてや朱華ちゃんに関しては予想外過ぎた。
するとそんな私の質問に対して、「へへんっ」と腰に手をつき得意げに胸を張る妹。
「まさ兄もあや姉も昔からけっこうマニアックなのが好きやったからなぁ。それに休みの日にあの二人がたまにリビングで一緒の映画見てんのも知ってるし」
「…………」
余計なことを聞くんじゃなかった。
思わぬところでグサリと鋭い刃が心に刺さってしまい、私は思わず「うっ」と小さな悲鳴を漏らす。
するとそんな自分の心境にはもちろん気づくこともなく、「ほんなら尾行の続きやっ」と楽しげな声を上げて意気揚々と前を歩いていく心晴ちゃん。
これからは彼と一緒にいるのが恥ずかしいからといって休みの日に朝っぱらから出かけるのはやめて、家で大人しく居ようと思います………ぐすん。
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