第20話 裏・サービス回……からの不意打ち。
私こと
だって……だって…………
「やっぱり、こんなのじゃダメなのかな……」
自分の部屋にある姿見の前に立ちながら、ぼそりとそんな言葉を呟く私。
そして両手の指先でパジャマの胸元にあるボタンに触れると、それを上から順にゆっくりと外していく。
薄暗い部屋の中で露わになっていくのは、いつも見慣れている白い素肌と、胸の膨らみを包み込んでいる見慣れないピンク色のレース生地。
鏡の前で下着だけの姿になった私は、目の前に映る自分自身をじっと見つめる。
いつもなら白くてありきたりなものか、ちょっとだけリボンやヒラヒラがついているものしか身につけない私だけれど、今着ている下着は明らかに大人の女性が持っていそうなデザインのもの。
先日大阪梅田の街に訪れた時に、勇気を出して買ってみた一枚だ。
「
またもそんなことを弱々しい声でぼそりと呟くと、私は両手を広げてそっとブラに触れてみる。
薄いレース素材のそれは、しっかりと谷間を作るだけの固さとハリはありながらも、触ってみると生地を通して胸元の柔らかさもふにゅっと手のひらに伝わってくる。
べつにこれで何かの展開を期待したわけでもなければ、ましてやその……まさ君に見せるために買ったわけでもない。
まずは魅力的な女性になるための第一歩として自分ができるイメチェンを頑張ってみたのだ。
そう、頑張ってはみたのだけれど……
はぁ、と思わず大きなため息をついてしまう自分。直後脳裏に思い浮かぶのは、今日の晩御飯での出来事。
おそらく親切心から心晴ちゃんの雑誌の落とし物を拾ってあげたというまさ君は、あの後怒涛の勢いで朱鳥ちゃんに怒られて、そして心晴ちゃんには大笑いされていた。
そんな彼の心境も心配なところではあるが、それ以上に気になるのは、あの本のことといい今回のことといい、きっとそう……
まさ君は、ひもパンツが好きなのだ。
「でもさすがにあんなのは無理だよぉ……」
思わず自分がひもパンツを穿いているところを想像してしまい、恥ずかしさから今度は両手で顔を覆い隠す。
正直、この下着を付けて人前に出るだけでも心臓がバクバクになっちゃうのに、あんなものを穿いて学校に行ける女の子が本当にすごいと思う。私にはぜったいに無理だ。
けれども、もしもまさ君がそれを望むのであれば……と勝手に妄想を膨らませては一人羞恥なプレッシャーを感じていた時、静かなはずの部屋にコンコンとノックの音が響いた。
「まり姉、まだ起きてる?」
「ッ⁉︎」
突然扉の向こうから
「……どうしたのこんな時間に?」
扉を開ければ部屋の前に、グレーのスウェットを着た心晴ちゃんが立っていた。
「ちょっとまり姉とお話ししたいことがあってな」
改まった感じでそんなことを言ってニッと笑みを浮かべる心晴ちゃん。
普段から気まぐれで私の部屋にやってくることもある彼女だけれども、こんな夜遅くに来ることなんて滅多にない。
だからだろうか、何となくただならぬ雰囲気というか妙な胸騒ぎを感じてしまった私は、反射的にゴクリと唾を飲み込む。
そして「とりあえず中に入ったら?」と声をかけると、うんっと頷く心晴ちゃんが部屋の中へと足を進める。
「それで……お話って?」
私は扉を閉めると、できるだけ普段通りを装いながら妹に尋ねた。すると心晴ちゃんはわざとらしく眉間ににゅっと皺を寄せて、「うーんとね……どう言ったらいいんやろ」と一人ぶつぶつと呟く。
「まさ兄のことなんやけど……」
「ッ⁉︎」
不意に心晴ちゃんの口から彼の名前が出てきて、私の肩が思わずビクリと震える。
いやいや落ち着け真理愛、ただまさ君の名前が出てきただけじゃない。
動揺する心を無理やりそんな言葉で言い聞かせていると、目の前にいる心晴ちゃんはまるで何かを見透かしているかのように黙ったままじーっとこちらを見つめてくる。
まさか……まさか心晴ちゃんに、気づかれてる?
ドクンと嫌な音を立てる心音。背中にはじわりと滲む冷や汗を感じながらも、私はできるだけ表情は崩さずに妹のことを見つめる。
するとタイミングを見計らっていたかのように、心晴ちゃんが言う。
「まり姉にはいつか話さなアカンと思ってたんやけど――」
確信めいた言葉と共に、私に向かって一歩踏み出す心晴ちゃん。
訪れる、一瞬の沈黙。
思わず息を止めて、覚悟を決めた瞬間だった。
目の前にいる心晴ちゃんの唇が再びゆっくりと開く。
「まさ兄と……まさ兄とあや姉をくっつけるのを手伝ってほしいねんっ!」
静かな部屋に突然響いた、心晴ちゃんの声。
私は今しがた妹が言った言葉がまったく理解できずにそのままフリーズしてしまう。
そして無機質にただ呼吸だけを繰り返すと、真剣な瞳で自分のことを見つめる心晴ちゃんを前に、パチパチと瞬きをしてから――
「………………え?」
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