第16話 裏裏裏・これがいつもの日常です。

 ウチこと神嶋かみしま心晴こはるは、考えていた。


「やっぱあの二人怪しいねんなぁ……」


 四時間目の数学がやっと終わった昼休み。机の上に広げたお弁当を前にして、ウチは眉間ににゅっと皺を寄せながらぼそりと呟いた。


「心晴ちゃん、なんだか難しそうな顔してるけどどうしたの?」


 同じようにお弁当を広げながら声をかけてきたのは、クラスメイトの川上かわかみ佳苗かなちゃん。

 ウチと一緒で東京から大阪に引っ越してきた女の子で、一年生の時に知り合ってからずっと仲良しの友達や。


「いやぁ、春はやっぱり恋の季節やにゃほほもては……」

「うーん、ちょっと後半が聞き取りづらかったかなぁ」


 もぐもぐと口を動かしながら喋るウチに対してとくに行儀悪いと怒るわけでもなく、のんびりとした口調でそんなツッコミを入れてくる佳苗ちゃん。


 ちなみに眼鏡をかけていかにも頭が良さそうな印象がある佳苗ちゃんは、その見た目の通り生徒会にも入っている優等生。


 この学校は中学でも高校でも生徒会に入れるのはほんの一握りの生徒だけで、成績が優秀なことはもちろん、熾烈な選挙戦も勝ち抜かなければいけないという狭き門。

 だから北新ほくしんで生徒会やってた、っていうたらそれだけでも進学で有利になるし、それに色んなとこにも顔が利くようにもなるんやて。

 実際生徒会やってた卒業生なんかでは政治家やおっきな会社の社長さんもたくさんおるみたいやし。

 まあ肩書きや成績なんかよりも、今この瞬間の楽しさを常に追い求めるウチにとっては全然関係ない話しやけどなっ。


「そういえば心晴ちゃん、今はお姉さんたちと一緒に住んでるんだよね?」

「うん。おにいも一緒やけどな」

「あれ? 心晴ちゃんって……お兄さんもいてたっけ?」

「おるよ! まあ顔はちょっと似てへんけど」


 そう言って、はむっと卵焼きを口の中へと放り込む。


 今の言葉をもしもおねーちゃんたちが聞いたら、きっと呆れられるか怒られるかのどっちかやと思うけど、ウチにとっては嘘やない。 

 ううん、ぜったいに嘘にさせへんから。

 そんなことを心の中で決意して、高校の校舎が見える窓をじっと見つめる。


 こうやってシェアハウスで暮らすようになって改めてわかったけど、ウチはやっぱりまさ兄のことが大好きや。

 もちろんライクやなくて、ラブのほうで。


 でもラブはラブでも心晴のまさ兄に対しての愛はおっきくて、それはもういうなればまさしく『家族愛』。

 だからこそ、ウチにはどうしても叶えたいでっかい野望があんねん。


 それはいつかまさ兄を……いやできれば今すぐにでもーー



 心晴にとっての本当のお兄ちゃんにさせることっ!



 もちろんその為には、何としてでもまさ兄とおねーちゃんをくっつけなアカン。

 ほんでもって二度と離れへんように赤ちゃんでも何でも早く作ってもらって、生涯ずっと添い遂げてもらわなアカンねん。それにや……


 おねーちゃんのあの感じ、ぜったいまさ兄のこと好きなんやと思うんやけどなぁ……


 パクっと今度はタコさんウィンナーを口の中に放り込みながら、ウチは最近のおねーちゃんの様子について振り返る。

 たぶんおねーちゃんからすれば普段通りのつもりなんかもしれんけど、ウチからいわせればバレバレの甘ちゃんや。


 ……よし決めたっ、今晩おねーちゃんに一発カマかけたろ!


 そんなことを思ったウチは、ニヤリと一人ほくそ笑む。


「なんか今日の心晴ちゃん、謎解きしてるみたいで楽しそうだね」

「ふふふ、任せとって佳苗ちゃん。この名探偵心晴にかかれば、真実はいつもじっちゃんの名にかけてやからっ!」

「うーん……なんだか色々混ざっちゃったか」


 そう呟く佳苗ちゃんにちょっと呆れられたような視線を向けられているのを感じながらも、ウチは抑えきれずにニシシっと笑い声を漏らした。


 何事も思い立ったらすぐに行動するのがウチの信条。

 すでに頭の中では、グットでナイスなアイデアが閃いている。

 見ときやねーちゃん、それにまさ兄……


 これぞ東京生まれの浪花育ち心晴が考える、まさ兄保管計画の始まりやっ!

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