第11話 これが本場のたこパです①
「じゃじゃーん! やっぱ大阪といえばこれやんなっ!」
そう言って、ダンっ! と
そう。シェアハウス二日目の晩飯は心晴の口うるさい希望により、たこ焼きパーティーに決まってしまったのだ。
「ちょっと
心晴に続き俺がたこ焼き生地の入ったボウルをテーブルに置いた直後、今度は口うるさい
「あんたさ、ダマが残ってたら食感悪くなるの知ってる?」
「いやちょっと待てよ。俺だって必死になって混ぜたぞこれ」
そう言って俺は腱鞘炎になりかけている右手首を朱華に突き出す。
「せっかくやしたこ焼き百個作ろ!」と何を血迷ったのか、心晴がたこ焼き粉をすべてボウルにぶち込んだせいで、俺は家に帰ってから今までの間、ミキサーのごとく永遠と右手首を酷使していたのだ。
「まあまあお二人さん、そんなかっか怒らんとダマっダマった」
「おい心晴、このタイミングでその冗談もムカつくからやめてくれ」
「ほえ?」と俺の苛立ったツッコミに対してきょとんと首を傾げてくるわんぱく娘。
くそっ、ちょっと可愛くなったからってそんなセコい技使ってきやがって!
小娘相手に不覚にも一瞬ドキっとしてしまった自分を誤魔化すかのように、俺は心晴のことを鋭い目で睨みつける。けれどもそんな自分に対してもっと厳しい視線を向けている人物がいることに気づき、俺は慌てて表情を戻した。
「か、
「……」
いや、そんな冗談を言っている場合ではない!
何やらさっきから連続殺人犯でも見つけた探偵のような目で俺のことをじっと見つめてくる真理愛さん。……とりあえず怖いっ!
するとそんな俺の心境など露も知らない心晴が陽気な声で言う。
「ではではまずウチが、本場大阪のたこ焼きの作り方を見せたるわ!」
ドヤ顔でそんな言葉を言い放ち、俺が命懸けで作ったたこ焼き生地をお玉を使ってプレートの上に広げていく心晴。そして彼女は流れるような手つきでその中に具材を放り込み始めた。
俺にとってたこ焼きとは、その名の通りタコを入れるものだと思っている。
しかしここ本場の大阪ではそうではないらしく、彼らはタコ以外にもソーセージやキムチ、それに餅やイカなども入れるというではないか。
ちなみに
思わず心の中でエセ関西人みたいなツッコミを一人している間にも、たこ焼き職人心晴は器用に竹串を使いながらプスっ、クルっとプレートの上でたこ焼きを宙返りさせていく。
「はい兄ちゃん、いっちょ出来上がり!」
「お、おう……ありがと」
気分はすでに屋台のおっちゃんなのか、ニカっとした笑顔と共にたこ焼きが入った皿を差し出してくる心晴。……っておい。なんかこのたこ焼き、全部くっついててぶどうみたいになっちゃってるけど?
やっぱりこういうところは心晴だな、と内心で呆れながらもこんなやり取りにどこか懐かしさも感じている俺。
しかしよくよく考えてみるとこの状況、なかなかにすごい光景である。
昔からよく知る幼馴染みとはいえ、群を抜くほどの美少女三姉妹と年頃の男が一つ屋根の下でたこ焼きをつつきあっているのだ。
しかもそのうち一人は年上の元カノというのだから、もはやたこパというよりカオスパーティーならぬ『カオパ』だ。
などとたこ焼きを口に運びながらそんなくだらないことを考えていると、今度は朱華の声が耳に届く。
「あれ、まり姉そんなけしか食べないの?」
真理愛さんが自分の取り皿に3つだけたこ焼きを乗せるのを見て、何やら不思議そうな声を漏らす次女。
いやいや何を言っている朱華。あの真理愛さんだぞ? 野蛮なお前と違って清楚で洗礼された真理愛さんが暴飲暴食などするわけがないだろ、言葉を慎め言葉を。
なんてことを直接言うと怒られるので、もぐもぐとたこ焼きを頬張りながら朱華のことを睨んでいると、今度はキラーパス心晴が言う。
「あーもしかして生理になってもうとか?」
「ヴフっ!」
俺の口から、まるで大砲のごとくたこ焼きが発射された。
直後「汚いッ!」とすかさず朱華が未使用のお玉で頭を殴ってきたのだから、やはり俺の人権は保証されていないようだ。というより痛いからやめてッ!
ほんとデリカシーも思いやりもない二人だな、と後頭部を押さえながら苛立っていると、少し顔を赤くした真理愛さんが「ううん。大丈夫……」と何やらぎこちない様子で首を振る。
相変わらず心晴の頭がおかしいことに変わりはないが、しかし真理愛さんの様子もさっきから明らかにおかしい。
いや様子がおかしい理由も原因もほぼ百パーセント俺のせいだとは思うのだけれど、こうやって彼女とチラリと目が合っても今度はすぐに視線を逸らされてしまうという悲しい現実。……ああ、やっぱりあの紐パンツがいけなかったのか。
そんなことを心の中で嘆いていた俺だったが、ここは何としてでも起死回生をはかりたいところ。
その為には慎重かつ怪しまれないようなペースで距離を縮めていくしかないとたこ焼きを飲み込みながら作戦を練っていると、今度はキラーパスじゃじゃ馬が言う。
「ってかさ。将門とまり姉ってなんでお互い苗字呼びなの?」
「「……え?」」
突然竹串よりも鋭いことを言い出した朱華の発言に、思わず凍りつく二人。
いやお前なに言っちゃってんの? と目を見開いたまま固まってしまう俺だったが、しかしこんな時に限って必ず便乗してくるのが――
「そうそれ! ウチも変やなって思っててん」
心晴だ。
まったく空気が読めない二人のせいで、早くも冷や汗が止まらない俺。それどころか急激に心が追い詰められてしまっているせいか、どこからか怪獣の鳴き声のような幻聴まで聞こえてくる始末。
そしてそんな俺の前では、同じように落ち着きなく何やらそわそわとし始めた真理愛さん。
ほら見ろ二人ともッ、お前らが変なことを言い出したせいで真理愛さんが急にノンストップでたこ焼きを食べ始めたではないか! …………って、あの真理愛さん?
ほとんど息つく間もなく突然たこ焼きを食べ始めた真理愛さんを前に、思わず目をパチクリとさせる俺。
ダメだ。いつも落ち着いてて大人びている真理愛さんでさえこれほど動揺してしまっては、この場はもう自分が対処するしかない!
そう思うと俺は男として、そして一度は愛された元カレとして、勇敢にもじゃじゃな二人に切り込んでいく。
「い、いやそれはアレだ、そうアレっ! 俺も高校生になったからにはと……と、年上の方にはこう敬意を払おうと思ってだな……」
たぶん今の俺の会話力、不祥事がバレた政治家とトントン。
なんて焦りを全身で感じていると、今度は不祥事を逃さないマルサの女のごとく「ふーん……」と何やら訝しむような視線を送ってくる朱華。
このままでは真理愛さんからキツく口止めされてしまっている自分たちの過去の関係がバレてしまうとさらに焦った俺は、一か八か、この状況を打破するために会心の言葉を捻り出す。
「よ、よーしッ! 今度はこの俺が本場東京のたこ焼きを焼いてやる!!」
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