第7話 10月17日、18日

 

10月17日(日)


 パパ、スマホ鳴ってるよ!

電話じゃない、誰から?

あっ、部屋から出て行くんだ、怪しい。

彼女?

い、いないか。

あっ、帰って来た。あたいの横を通って食卓に……


「ヒロが死んだって」

「うそっ」

「葬儀場の連絡シートが回ってきたって、ゆうやからの電話だった。一人暮らししていた部屋で亡くなってたって」

「なんで?」

「分からん。仕事はしてたみたいなんだけど、友だちが行ってみたら亡くなってたって。明日お通夜みたい」


えーっ、教え子さん亡くなっちゃったの。まだ若いんじゃない?

27歳、そんなぁ、まだ全然若いじゃない。可哀想、悲しいね。パパ、ママ大丈夫? しっかりしてね。


キャプテンやってた子なんだね。

パパが大腿骨の骨折で入院してた時、監督代行をしていたママを助けてくれてた子なんだって。未経験者ばかりの学年をひとりで引っ張ってくれてた子で、最後の大会の前には、体育の授業で鎖骨を骨折、入院してて出れなかったけど、それがきっかけか、その整形外科病院で働いてたんだね。卒業してからも高校、社会人とサッカーを続けて、時々、後輩たちに教えにも来てくれてたけど、最近は新型コロナの感染拡大であまり来れなくなってたんだって。良い子だったんだろうにね。あたいは生きてるのにね。ママもあたいのことは助けたけど、教え子は助けられなかったのかと少し悩んでる。


 あたい黒猫だし、そこんところやっぱり気になるよね。


 不吉と言われたり、特に中世のヨーロッパでは、魔女狩りと一緒にたくさん殺されたり、不運な目にあったみたいだしね、あたいたちの先祖様たち。

今の日本じゃ、逆に幸運の猫と言われる事もあるし、そっちを信じて、ママ。あたいやママやパパにもどうしようもない事だったのよ。彼は彼の人生を全うして亡くなった。あたいは、まだ全うしてないからママが助けてくれた。まだ歩けるようになるかどうかもまだ分からないけど、あたいは、せっかく繋いでもらった命、全う出来るまで生き続けるわ。ママ養ってね、27年は生きないと思う。あっ、ごめんなさい、勝手なこと言っちゃった。御冥福をお祈りします。


おやすみ、ママ、パパ。



10月18日(月)


パパお帰り、パパ見て、ほら、右手動くよ。

無視か、なんか忙しそうね。


そっか、教え子さんのお通夜に行くのね。

パパ、黒猫の側で黒装束になるか……。


いってらっしゃい、気をつけてね。教え子さんにちゃんとお別れを言ってきてね。

あたいは、ママにご飯もらうわ。



パパ、お帰り。ずいぶん遅かったのね。


 最初はギリギリ葬儀場の駐車場に入ったけど、大混雑になって、あとから来た車に被せられて空くまで出れなかったみたい。しかも、多くの友だちや他の教え子さんたちは、全然、葬儀場から帰ろうとしなかったんだって。

人気者だったし、とってもみんなから愛されてたのね。パパは、当時、保護者会会長さんもしてくれていたお母さんのことも心配してた。突然だったし、子どもさんを亡くすのは何よりも辛いでしようからね。原因不明の突然死だったんだって。


 葬儀場には、友だちや家族と楽しく遊んでる写真や現在の社会人サッカーチームのみんなと撮った写真、パパたちと撮った中学生の頃のチームの写真とかをたくさん飾ってあったんだって。


『きっと彼は、ぼくらよりもとんでもなく濃くて、太い人生を過ごし、全うして、ぼくらを追い越して、先に逝ったんだろう』


ってパパが言ってた。

悲しいね。お母さんにもそう思ってもらうしかないね。


 命をまだ持ってる人や猫は生きなきゃね。猫のあたいが言うのもなんだけど。


 パパ、ママおやすみ、今日もご飯、美味しかったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る