第6話10月16日
10月16日(土)
おはよう
ママまだ寝てるね。昨日も遅くまで起きてたのかな?
パパは?
サッカーの練習か、頑張るね。
部員何人いるの?
担当の中学生は、丁度3年生が抜けたばかりで10人。
えっ、新チーム足りないじゃん。サッカーって11人じゃないの? しかも、ゴールキーパーが腕骨折、フィールドプレーヤーも骨折ともう1人は病気入院中。7人じゃん。大丈夫なの?
少子化で子どもが少ないんだね。人数足りなくても練習はちゃんとやるんだね、偉い。
パパの周り、骨折している子ばっかりだね。あたいも含めて。なんか悪いことしたんでしょう? 美人先生に手とか出してないよね。
パパおかえり、お疲れ様。
練習楽しかった? 人数少なくたって、弱くたって、楽しめるチームがいいね。
弱いとはパパ言ってないか。ごめんなさい。
ママ起きないね。
パパは昼からでも良いよと言ってる。今日は、あたいを別の病院へ連れて行く予定なんだって。
おじいちゃん先生が手術は、あたいの腕は小さ過ぎてしきらんと言ってたからママがセカンドオピニオンを探してたみたいなんだ。意外と近くにクチコミの星4.7の動物病院があったんだって。
4.7って何よ? そんなの有りなの? ほとんど満点じゃない。そんな良いところが隣町にあるの? 行こう行こう、ママ起きて。ダメ元でもいいわ。パパお金払ってくれるんだよね。
あたいが寝ている間に動物病院に着いてた。 あたいは、また段ボールの中。午後の診察時間より早目に来たんだね。人気の病院だから混むかもしれないとママにしては珍しく早く出たみたい。パパは、午前中のジャージのまんまだね。
今日は、受付、なんて書いたの?
スピカ、スピカね。ありがとうね、ママ。
ブー、ビビビー、ブービビー
何? 一体なんの音?
長く待つ事を想定して自動販売機で買ってきたミルクティーをママが飲もうとした時に呼び出しのブザーが鳴って、ママが慌ててる。もう順番回ってきたのね。早かったわね。パパも行こう。初めてだから緊張するわね。今度はどんなおじいちゃん先生かしら?
あれ、若い女の先生じゃない。美人そうね。マスクで分からないけど。看護師さんもいるし、こちらも若い美人さんじゃない。何、ニヤニヤしてんのよ、パパ。
これが星4.7の理由? パパにとっちゃそうだろうけど、ペットを連れてくる人には、男性少なそうだしなあ。それだけじゃないよね。
「可愛いね〜」
あたいの背中、撫でてるのは誰? 看護師さんか。分かってるわね。そりゃあたいだから当然よ、可愛い。
先生が紫色のスクラブ、看護師さんが赤いスクラブに白いエプロン、着分けしてるのね。
よろしくお願いします。
「先ずは、レントゲン撮影ですね。別の部屋で撮ってきますのでここでお待ち下さい」
ああ、パパママ行ってきます。
痛、痛たた。
「ああ、お利口さんね」
お利口さんって、言われても痛いのは痛い、痛いわよ。こんな痛い格好でレントゲン撮らないといけないの? しかも何枚も。
パパママ、レントゲン撮ってきたわよ。
ちょっと痛かったけど頑張った。
「いい子でしたよ」
「でも、ノミが……」
そう、まだ生残りがいたみたい。宮本武蔵も打ち損じがあったみたいね。
これがレントゲンの画像、あたいの骨なの? 細いわね。
先生が説明してる。
「脊椎は、ちょっと曲がって見えますが、大丈夫ですね。腰のところもどうもなっていないです。でも、骨盤を骨折していますね。ここの縦の線のところ、恥骨のところにも線がありますね」
ええ、骨盤を2か所も骨折。だから動けないのか。でも右手は動いてるよ、痛いけど。
「オシッコとウンチは、ちゃんとできているということですよね?」
ママが事故に遭ったその日、とてもたくさんウンコをしたこと、2日目に血尿が出たけどもう大丈夫になったこと、ここ数日、ウンコをしていなくて心配していたけど、昨日、おじいちゃん先生のところへ行ったときに出したことを説明している。
ママ、女性の先生でもやっぱり恥ずかしいわ。あたいレディなのよ。
「排尿や排便は正常にできているようなので、神経の圧迫はないと考えられるし、骨盤の狭窄もないように見えます。立って、歩けるようになりますよ」
ええ、なん、何って言った? 歩けるようになる。 ほんと?
ほんとにほんと? まだなんも動かないけど。
いくらわかくて美人だからって、いい加減なこと言ったらあとで怒るわよ。
そうなの、立てるようになるの? オシッコもウンコもトイレで出来るようになる?
やった、やった。ママ歩けるようになるって。
あれ、 ママどうしたの? 大丈夫、 聴こえてた?
「骨盤の骨折が治れば、歩けるようになるということですね?」
おお、パパ、ナイスフォロー
「はい、そうです。」
先生、笑顔ね。ほんとなのね。可愛いわよ。
「右手は……?」
あっ、そうだよね、ママ。おじいちゃん先生が折れてるって言ったこの痛い右手は?
「ちょっと待って、これ、誰の?」
あれ、先生見てなかったの? さっきからずっとあたいのレントゲンを見てたじゃない。あたいのよ、あたいの。 可愛い笑顔消えてきたわよ。
あたいがあんまり動かすから、右手を見るの忘れてたのね。
白い濃い線ね。やっぱり折れてたのね。粉砕骨折?
「少し待っててください」
ああ、行っちゃうの? 逃げなくていいわよ。どこ行くのさ?
下半身が動くようになったら右手の一本やニ本、動かなくたって、大丈夫だわ。右手は元々一本しかないか、失礼。
奥から白衣を着たおじさんを先生が連れて来た。院長先生ね。優しそうでかっこいいじゃない。美人先生のお父さん? おじいちゃんじゃないわね。この人も星4.7の理由? そっか、そっか、なるほど。
「ああ、ここは、少し捻れがあるところで難しいんですよね……。うちみたいな小さな病院じゃなくて、設備のそろった大きな病院じゃなきゃ無理ですが、子猫で腕が細いし、大きな病院でも難しいと思います。私は、やれと言われてもやりたくないです」
痛っ、突然、何、手引っ張って何すんの? 院長先生。
「ごめん、ごめん、痛かった?」
痛かったわよ。院長先生もほんとに折れてるかどうか確かめたのね。おじいちゃん先生も言ってた。折れてるのよ。でも手先動くし、なんとかなるかもしれない。あたい頑張ってみるわ。まだ子猫だし、任せて、パパママ。手術しなくていいよ。歩けるようになるだもん。万々歳じゃない。
「骨盤の方は3週間くらい、いや、ここは長くかかるからもうちょっとかな? でも、くっついて歩けるようになります。なる筈です」
「そういうことで、今日は特にやることはないので、ノミ取りでもしていきますか?」
何それ、先生。さっきはいなくなったくせに。ノミ取り? いや、もういい。あの匂い、嫌。ママ断って。あれが最後の1匹よ、きっと。
「まだ、無理したら骨折が酷くなるかもしれないからやめておきましようかね」
そうそう、ありがとう美人先生。
ママ、パパ、あたい歩けるようになるんだって。早く帰ろう。お兄ちゃんたちにも伝えなきゃ。
「良かったね、良かったね」
うん、ママ、ありがとう。
パパ手術代、浮いちゃったね。
20万円、本当にあったの?
「良かった、良かった」
パパ。
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