第8話 よるちゃんねる、開設

あらすじ:103号室の心霊パニックの時、幸いにも良心よいこ瑠香るかの二人は瀬田せたまどかの家へと引っ越しの挨拶へと向かっている所だった。難を逃れた二人だが、セットした映像には何一つ映っておらず。悲鳴だけが聞こえる映像を手にした二人は、仲良くお風呂へと向かったのだが――


――


「はい! 画面の前の皆様おはこんばんにちはー! よっちゃんでーす! 今日は私の家を紹介したいと思いまーす! えっと、実は私最近引っ越しまして。引っ越しした理由は様々なんですが、とりあえず決めたのは家賃の安さなんです! なんと月々ピーー円! 四桁ですよ!」


「ダメっすよ! 家賃の事は内緒って言われたじゃないですか!」


「あれ? そうだっけ? ……あ、そうか、値段でバレちゃうかもしれないもんね。じゃあそこはさ、ほら、よくあるピー音で良くない? 編集とか瑠……るーちゃんなら出来るでしょ?」


「え、私のパソコン使うんすか!? 聞いてないっすよ本当に……って、これもう撮影されてるんじゃなかったしたっけ?」


「あ、そうだった! もう、急に飛び出てきたから順番が狂っちゃったよ。えっと、こちらは私の相方、るーちゃんです! 同じ学校の同級生で、この家に二人で住んでます! はい、るーちゃん自己紹介、自己紹介」


「えぇ……別にそんなのいらねぇっすよ。……るーです、宜しくお願いします」


「ふふっ、動画慣れするのはまだまだかなぁ? さて、この動画を撮影するのには理由があります。るーちゃん、その理由は?」


「なんすか、質問形式で進めんすか? 台本も何もねぇじゃねぇですか……え? カンペ? えっと、この部屋は何と、世にも恐ろしい事故物件なんです。きゃー怖い (棒読み)」


「そうなんです! この部屋は実にピー人もお亡くなりになっている最恐の事故物件なのです!」


「だから! そういう具体的な数字はアウトっす! ただでさえ襲撃があった家なんすから、特定されたらひとたまりもないっすからね!?」


「あ、あはは……るーちゃん結構鋭いね。じゃあそこの所も『ちょっきん』しといてね」


「カットじゃなくてピー音っすよね。大体あんまり動画加工なんかしてたら、何か映ったとしても信用性が低くなりますよ? こういうのはカット無しのそのままが求められる傾向にあるんすから」


「なるほど、るーちゃん研究してるんだねぇ。お姉さん嬉しいよ」


「べ、別に褒められたって――」


「さて切り替えていきましょう!」


「ぐ……」


「まずは家の間取りを説明いたします! ……よいしょ、あ、変なの期待してる人がいたらごめんね、プライバシーは全部隠してありますので、あしからず。まずは玄関です! この玄関、なんと電子錠なんですよ! 事故物件なのに最新式です! そして振り返った先にあるのがキッチンスペースですね。奥にあるテーブルでご飯を食べたりするんですが、今日は初日という事もあり、まだ誰も座っていません!」


「蕎麦は茹でましたけどね」


「引っ越し蕎麦だから、それはいいの。はい、なんとこのキッチン、食器洗浄もついてるんですよ! 凄いですよね、食器洗浄! 私生まれてこのかた使ったことがありません! 一体どこに洗剤入れるんでしょうね……わくわくしますね!」


「それはよっちゃんだけっす。リスナーが求めてるのは違うんすから、とっとと他に行くっす」


「こ、こほん。では、続きましてトイレです。暑い季節なのにるーちゃんが絶対に譲れないって我儘をこねた結果、我が家のトイレには座面にもこもこシートが敷かれております! スリッパまでモコモコです! 私は家のトイレは素足派なのですが、実は少数派なのでしょうか!?」


「だから興味ねぇって言ってるんっすよ! 次っす! 次!」


「むー! るーちゃん怖いよ! ……えっと、次は洗濯機とかが置かれている洗面所兼脱衣所ですね。今日の分は既に回ってますので、脱ぎたての下着とかはありませんので、あしからず。そして浴槽です! ここはついさっきまで二人で入っていたお風呂ですね。まだ水滴がついていて、浴室乾燥を回してはいますがなかなか乾かないもんですね~」


「あ、よっちゃんはここでシャンプーハットを使って頭洗ってたっすよ。いい歳してシャンプーハットないと頭洗えないとか、どこのお子ちゃまなのかと思ったっすよ」


「な、なんでそんなこと言うの! それこそ求められてないから! そんなこと言ったらるーちゃん何か洗う時にピーーーーー! ピーーー! ピピ! ピーーー!」


「ちょ、ちょっと待ってピーさん! それは流石に放送できねぇっす! ノーカットでいこうって言ってるのにもう何回ピー音流してるんすか! 加工してるって一発でバレますよ!?」


「だってるーちゃんが変なこと言うから! よし、一回落ち着きましょう。とにかく、お風呂です。多分今後も二人で入るんだと思います。怖いんだもんね、るーちゃん」


「……そこはしょうがねぇと思いますよ。怖いの嫌いですもん」


「ふふふっ、はい、仕切り直して。何回目の仕切り直しとかは気にしない!」


「めっちゃ気にしてるじゃないっすか」


「次は二人の部屋になりまーす! 入って右側がるーちゃんのエリアで、左側が私のエリアになります! テレビは二人が見える様に置いてあって、中央にテーブルですね。そして物置ですが――」


「あ、そこは開けちゃダメっす! プライバシーモロですから!」


「――っとと、忘れてました。という訳で、ここを開けるとしたら何かがあった時ですね。そして大きな窓を開けると、人工芝が敷き詰められたベランダへと出る事が出来ます! 1DKのお家なんですが、ここは事故物件の中でも最強なんじゃないかと言われている物件になります! これから毎日撮影をして、それを投稿できたらいいなって思っていますので、応援宜しくお願いいたします!」


「あれ? よっちゃん、アレ流さねぇんすか? せっかく動画修正頑張ったのに」


「あ、それは動画の最後でいいかなって。実は、先程るーちゃんが言ってましたが……この部屋、今日の夜九時頃に見知らぬ人達に襲撃されたんです。タブレットを使って録画してたんですが、残念ながら映った映像は真っ暗なままでした。後日暗闇でも撮影可能なカメラを用意しますので、夜の映像は少々お待ちいただけたらと思います。……映像はダメでした、ですが」


「声はバッチリ撮れてたんすよね。とはいえ、特定できねぇように加工はしましたが。そして勿論通報も済みっす。人の家に勝手に入ろうとするなんて犯罪っすからね」


「お巡りさんとの会話も録画してたけど、迷惑かけちゃアレだからね。それにしてもお巡りさん達も驚いてたよね、まさかここに女の子が住むなんてって言ってたし」


「……そんだけここがやべぇって事ですよ」


「そうなんだろうねぇ……なんか、本当に心霊動画撮影出来そうで、わくわくするよね!」


「しねぇっす! 普通の女の子なら心霊映像なんか求めねぇんすよ!」


「あはは、さてと、今日の所はそれを流して終わりにしたいと思います! 気になるよって方は是非ともチャンネル登録して下さいね! 応援のコメントお待ちしております♪ それではよっちゃんと」


「るーがお送りしました。よるちゃんねる、また明日~」



――応援コメント――



・はい可愛い

・チャンネル登録しました

・プライベートなシーンはいつですか?

・事故物件動画って最近増えて来たけど、ついに女も来たか

・最強の事故物件ってどこよ

・応援してます! 明日も気を付けて!

・僕が守る

・日常のシーンでもおじさんスパチャするよ?

・むしろ日常かもん

・さっきのお風呂のシーンで白いモヤが掛かってなかった?

・湯気だろ

・え、ってことは本当に使用済みのお風呂ってこと?

・>使用済み どういう意味よw

・お風呂なんだから、そりゃ使用済みだわなw

・可愛い子が現れたな

・お化けになりたい

・ダメ

・最後の声って男だよな、上って言ってたけど、何か映ってたのか?

・っていうか警察通報案件じゃね? 住居侵入じゃん

・通報したって言ってただろ、ちゃんと聞けよ

・よっちゃんとるーちゃんの二人は、俺が守る!

・いつ脱ぐの?

・事故物件はなめてかかると本当に危険です。きちんとお祓いをしてからにしないと……二人の身の安否が気になります。住所を教えて下さい、お祓いに行きます。

・それ住所知りたいだけじゃね?

・新手の詐欺やんw

・明日の投稿時間は何時ですか?

・チャンネル登録と高評価しました! 付き合って下さい! 僕はるーさんが好きです!

・どっちか片方、イクナイ

・お風呂担当で幸せでした

・そうよな、いくなら二人一緒にだよな

・キモイキモイ

・襲撃犯の最後の「ぎゃ」って何があったんだろうな

・とにかく気になる、明日の投稿もお待ちしてます。


――

次話「このコメント、多分この世のものじゃねぇぞ」

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