二章番外編

第21話

 今日は沙耶香と遊園地にやってきた。

 大学生としての生活もだいぶ落ち着いてきた頃だし、そろそろどっか行こうという話になったのでやって来たわけだ。

 俺は今まで遊園地に行ったことがなかった。だから今日は楽しみにしていたのだ。


「晴れて良かったね」


「ああ」


 沙耶香はどうやら何度か来たことがあるらしく、今日は沙耶香が回るルートを考えてくれた。

 でも本当に今日は晴れて良かったと改めて思う。


 今日までろくにデートができていなかったし、何ならあまり会うことができていなかった。

 ずっと寂しかったのだ………俺は乙女か。


 今の時間は朝の10時。まだ人はあまりいない。

 俺たちはチケット片手に入場口へと向かい、そしてスタッフにチケットを見せてから雄園地の中へと進んだ。

 門を抜けた瞬間、大きな音楽が俺の耳の中に入ってきて、びっくりした。

 そして目の前の光景は圧巻そのもの。四方八方建物建物。建物だらけ。そして遠くに見えるのはアトラクションだろうか。その方向から悲鳴が聞こえたので間違い無いと思う。

 俺が一通り見終わったのを見計らって、沙耶香は声をかけてきた。


「それじゃあ行こっか」


「最初はどこに乗るんだ?」


「やっぱり……定番から攻めるべきでしょ」


 と言うわけで最初に乗るのはジェットコースター……のこの遊園地にある中で最恐クラスのものだった。

 これは流石に俺も知っていたもので、何でも、失禁する人が出るのだ。怖すぎて。

 高度最大100mまで上り、その上360°回転する箇所が五箇所もある。これを見た時、本気で人を殺しに来てると思ったほどだ。

 隣を歩く彼女を見ると、小さなステップを繰り返していてもう全身でワクワクしているのがわかる。よっぽど楽しみだったのだろう。

 それを見てほっこりしていると、沙耶香が急に止まったので何事かと思い、前を向いた。


「い、いい、1時間待ち……」


「……」


 さっきから沙耶香は声が出ていなかった。


「な、並ぶか?」


「……うん」


 すぐに乗りたかったのだろう、早速10時にきたことを後悔しているようだった。

 ここの開園時間は午前9時。開園してから1時間経っただけで物凄い列ができているのだから、このアトラクションがどれほど人気なのかがよくわかる。

 俺たちは早速並ぶ。待っている間は沙耶香と話したり、スマホゲームの対戦を2人でしたりして時間を潰した。

 そして1時間くらい経ち、ようやく俺たちの番になった。


「それではこちらに2人で並んでお座りください」


 その指示通りに座ると、しばらくして上にあった安全バーが下に降りてきた。

 それを見て俺は、何だかそわそわしてきた。安全バーが降りてきてようやく始まるのかと実感が湧いてきて、緊張が全身を支配した。


『それでは〜、3、2、1、行ってらっしゃ〜い!!』


 そのアナウンスが言い終わる前にいきなり急発進して、俺の全身に圧力がかかった。


「う゛っ!?」


「あはははは!!!」


 俺の呻き声が聞こえたのか、隣で沙耶香が大爆笑していた。いや、これはジェットコースターが始まった興奮もあるのだろう。そうだと信じたい。


 そして少しずつスピードが上がっていくが、ある場所をを境にスピードが落ちていった。しかしその直後にゆっくりと上がっていってるのがわかった。


 俺はさっきから無言である。別に怖いからではない。衝撃が凄すぎて、喋る暇がなかったのだ。

 まあ、そんなことは今はどうでもいい。


 そんなことを考えていると、既に最高点まで昇ってきていた。


「あ、ここで死んだ人いるらしいよ」


 沙耶香がこの高所から降りようとした瞬間に言ってきた言葉が、今まで押し殺していた恐怖を表に引き上げた。


「あああああああああああああ!!!!!!!」


「あはははははははあはははははあははははっはああはははは!!!!!」


 俺は絶叫を、沙耶香は笑い声をそれぞれ上げながら、ものすごい速度で降りていくジェットコースター。それを見た人はきっと恐怖しただろう。沙耶香に。それほどまでに怖かったと、ここで言っておこう。


 ちなみにその後、俺はジェットコースターで疲れせいでぐったりとしてしまって、沙耶香が計画していたものの半分しか乗れなかったとさ。



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