第19話
「───んぁ?」
「っ!?新谷くん!!!」
「……ぁ、さ、沙耶香……?」
「……うん、うん……!よ、よかったぁ……!」
気がついたら、俺は病院にいた。まだぼやけてよく見えないが、手を握ってくれているのが沙耶香だと言うことだけは分かった。
「……俺、大丈夫、だったのか?」
「うん、命に別状は無いって……よかったよぉ……!」
「……心配かけたな」
ちょっと暴力振るって捕まってしまう可能性があるというのが不安だったからとはいえ、流石に腹にナイフを刺れた状態で殴ったりするのはキツかった……マジ危ねえ。もう二度としたくない。
ナイフは確かに腹に刺さってはいたが、刺されていた場所が場所だけにちょっと危なかったらしい。
「……怖え」
「……あんまり思い出さない方がいいよ?」
「……そうだな」
これで、山代に殺されかけたのは二回目となるわけだが、一度経験していたからか、ある程度落ち着いていた。
と、俺たちの間で静かな空気を醸し出していたその時、ガラガラと、病室の扉が開く音がした。
俺たちがそっちを向いてみると、刑事ドラマとかに出てきそうな人がそこにいた。
「警視庁の者ですが、少しお話を聞かせてもらえないでしょうか」
「……はい」
「ありがとうございます。それでは───」
それから数十分間、いろんなことを聞かれた。主に、その時の山代の行動だとか、言動だとか。
一通り質問し終えたのだろう、彼はメモ帳を閉じてそれを胸ポケットにしまった。そして“ご協力、感謝します”と一言言ってから病室を去ろうとした時、俺は聞きたいことがあったのを思い出した。
「……山代は、ちゃんと起訴されますよね?」
「………」
彼はその質問に少しだけ悩んだ様子を見せた。恐らく話してもいいのか考えているのだろう。
彼は一度小さく頷いた後、口を開いた。
「はい。間違いなく」
「……ありがとうございます」
「………」
そして今度こそ、彼はこの病室から去っていった。俺と刑事さんが喋っている間、沙耶香はずっと黙っていた。何かを我慢している様子で、ずっと、俺たちの会話を見守っていた。
「……ふう」
俺は緊張の糸が切れて、思わず一息ついた。心なしか、体全体にあった重荷が外れたかの如く、気持ち的にだが、体が軽い。
腹部はまだ少しだけ痛むが、今はそんなのも気にならない。とにかく安心した。
「………」
ふと、横を見ると、俯いたまま喋らない沙耶香が体を少しだけ震わせていた。
「あ、あの……沙耶香?どうされたので?」
「………だよ」
「え?」
「よ゛がっだよ゛おおおおおおお!!!!!!」
「うわっ!?」
きっと、俺が安全だということに一番嬉しかったのは沙耶香に違いないと、大粒の涙と鼻水を出しながら俺に抱きついた彼女を見ながら、俺はそう思った。
でも……
「い、痛い、痛い……痛いです沙耶香さん」
「………ふぁ!?」
沙耶香に抱きつかれた時に腹部に衝撃が来て、山代に刺された時より痛かったのは内緒だが。
入院し始めてから一週間が経過した。その間何をしていたのかといえば、ぶっちゃけ何もしていない。精々、毎日来てくれる沙耶香と喋ったりしているくらいだろうか。後は、父さんと真穂が様子を見に来たくらいだろうか。俺が入院し始めた時に急いできたらしいけど、その時俺は意識を失ってたから入院してから実際に会うのは初めてだった。俺が元気な様子を見せると、二人ともホッとした様子だったのでよかったと思う。それと同時に、たくさん迷惑をかけてしまって申し訳なく思った。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「私、思ったんだけど」
「うん」
「女運無いよね」
「…………」
真穂からの何気無いその言葉が一番心にグサッと刺さった。今後、気をつけた方がいいなこれ。いつも気をつけてるけど。
そうして他愛のない話をして、二人は帰った。
こうして何もしていないと、中学の時を思い出す。あの時は勉強をしていたが、今は何かに追われているわけでも───
「あ」
俺は時計を見る。時刻はちょうど夜の7時になったところ。
この瞬間、俺が受けている授業で提出義務があったレポートが締め切られた。
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