第17話

 「ヒッ……」


 俺は覚悟を決めた。こいつが今の俺に恐怖していようが関係ない。ここで殺す。止めるとか、そんな生ぬるいものなんざここにはいらない。今必要なのは、憎悪だ。

 今までのトラウマを、苦しみを、今ここで吐き出せ。


 「私は、新谷くんの彼女なんだ……そうに決まってるんだ……あの女が、新谷くんの彼女なわけ、ないんだああああああ!!!!!」


 「っ!?」


 そう叫びながらやつ──山代は懐からナイフを取り出し、前に突き出しながら俺に向かって突進してきた。

 その急な行動に俺は驚いて、さっきまでの覚悟を一瞬忘れかけた。そのせいで、俺は一歩対応が遅れた。



 グサッ……と言う音と共に、俺の腹にナイフが刺さった。



 「うっ……」


 「へへ、へへへ……こ、これで、新谷くんは、私のぉ───」


 「正当っ……うっ……防衛……成立、だぁぁぁああ!!」


 「ぐぼえっ!?」


 俺は腹にナイフを刺したまま動かない彼女に向けてボディーブローを放った。


 「っ、ふんっ!!」


 「ぎゃっ!?」


 そして怯んでいる間に顔にむけて一発かます。奴は殴られた勢いのまま後ろに飛んだ。


 「じょ、女性の顔に向かって殴るなんて……」


 「正当防衛っつったろうが。問題なんざ、うっ……これっぽっちもねえよ。やらなきゃ……っ、死ぬしな」


 にしても、腹にナイフが刺さったままはちょっと、いや、結構来るものがある。ここはナイフを抜こう。


 「ぐぁっ!?」


 勢いよく抜いた瞬間、全身に強烈な痛みが走った。しかし、俺は何とか我慢した。


 「うっ……」


 下を見れば、洋服の腹の辺りが血で赤く滲み出している。これはまずいな。


 「そんな……私、彼氏に殴られた……あり得ない……そんなはずが……」


 「…………」


 「……あり得ない、あり得ない、あり得な───」


 「も、もうこれ以上、お前っ……の、戯言なんざ、聞いていられねえ……」


 冷静になって、殺すのは不味いと言うことに、今更ながら気がついた。もし殺してしまったら、沙耶香に迷惑をかけてしまうし、何より、一緒に暮らせなくなってしまう。

 結局、何が正解だったのだろうか。あの時こいつの告白を了承すればよかったのだろうか。だが、それは無し寄りの無しだろう。こいつとは絶対に付き合えない。こんな自尊心の塊みたいなやつとなんか、ごめんだ。


 「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ───」


 このまま、こんな感じで狂ったままでいて欲しい。正直、もう倒れ込みたい。かなり、腹がきつい。

 あっ、やっば、視界がぼやけ始めて───


 「新谷くん!!!!」


 「っ!!」


 その時、奴の後ろから、俺が一番聞きたかった声が聞こえた。


 「……っ!!」


 その声に、奴が反応した。

 

 「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ、クソ女ああああああああああああ!!!!」


 奴は振り返り、沙耶香に向かって走り出す。

 俺は最後の力を振り絞ろうとして、


 「警察だ!!」


 沙耶香の後ろから警察が何人も飛び出してきた。

 そして沙耶香に向かっていた奴を取り押さえる。


 「離して!!あのクソ女を殺す!!」


 「殺人未遂、不法侵入の現行犯で18時23分、山代遥を逮捕する」


 「離して!!ねえってば!!新谷くん!!助けて!!」


 「………」


 俺は朦朧とする意識の中、助けを呼ぶ山代に向かって、親指を下に向けた。

 そして俺は沙耶香に抱えられながら、意識を失った。



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 ※この作品はフィクションです。この作品内の世界の法律とかそういうのは現実のものとは違うので、批判は受け付けません。


 9月3日 修正入れました。


 

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