第11話

 次の日も、その次の日も、山代からのメールは止まらなかった。

 ブロックしてもブロックしてもブロックしても……止まることは無かった。

 俺の心には山代に対する恐怖があったが故に“やめてほしい”という、その一言が出てこなかった。


 「……はぁ」


 俺はもう限界だった。山代の意図が分からず、そして送られてくるのはいつも同じような文言。あえてもう一度言おう、限界だった。


 「……大丈夫なのか?」


 部活中、黒岡が心配して声をかけてくれた。今は何より友人の存在が何より有り難かった。部活に集中しきれていないことが分かったのだろう。


 そして部活が終わって帰りの支度を黒岡としていると、


 ピロン♪


 「っ!?」


 「あ、俺のだわ……どうした?」


 「っ、あっ、ああ、ちょっと……な」


 「……またなんかあったのか?」


 「……ああ」


 そこで最近起こっていることを話すと、すぐに先生に相談すべきだと言ってくれた。


 「一人で抱え込まない方がいい」


 「……ああ、ありがとう」


 そして次の日に先生に相談しようと決意した。これで変わると信じたいけど、今までで少しだけしか変わっていないこの状況を鑑みると、変わらないのかも知れない。でもやってみないと分からないと黒岡は言ってくれた。


 俺は支度を終えて黒岡と、合流した白澤と三人でいつものように一緒に帰る。

 今日も安全に帰れると、そう思っていた。

 

 「でさ?そのと───」


 「あ、ら、や、君♡」


 「っ!?」


 全身に鳥肌が立つ。後ろを向きたくない。きっと向いたら後悔する。いや、もう遅かった。

 後ろにいたはずの彼女が───山代があり得ない速度で俺の目の前まで移動したからだ。持っているのは手提げバッグ一つだけ。しかし俺にはそれが恐ろしく感じた。手提げバッグがじゃない。その中身だ。彼女は何を入れている。俺の全身が警報を鳴らしている。あの中身を出させてはいけないと。

 隣の黒岡と白澤が動けないでいる。それはきっと彼女から放たれている得体の知れない何かを感じ取っているからだろう。



 恐い。



 「新谷君、もう大丈夫だよ?」


 「な、何が」


 

 恐い。


 

 「もう、大丈夫だから」


 いつの間にか俺の近くまで来ていた。何も反応ができなかった。



 恐い。



 何も、言葉を発せない。黒岡と白澤も、こっちを向けないでいる。ここで彼らを責めることはできない。それは俺も同じだからだ。彼女の顔を、見ることはできない。



 恐い。



 「一緒に、なろ?」


 そう言って手提げバッグからを取り出した。


 その直後に何か、腹の辺りに衝撃を感じた。

 

 そこを見れば、俺の白いワイシャツが赤く滲み出している。


 俺の腹には、何がある?


 それを認識した瞬間、全身に激しい痛みが、駆け巡った。


 「ああああああああああああ!!!!!!!!」


 俺は痛みに耐えきれずに叫ぶ。そんな俺に山代は体重を俺にかけてきた。二人で一緒に倒れる。その痛みが更に腹の痛みを増幅させる。


 痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛い痛い痛い恐い痛い痛い痛いいい痛い痛い恐い恐い痛い痛い痛い痛い恐い。


 俺の叫び声にハッとした黒岡が山代を俺から剥がした。


 「白澤!!救急車っ!!」


 「あっ、ああ!!」


 俺は朦朧とする意識の中、必死に電話をしている白澤を見ながら、暗い底に意識を落とすのだった。



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 ストックが溜まり出してきたので、少し放出します。

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