第10話

 山代ファンクラブの働きかけによって、俺は平穏を取り戻しつつあった。

 部活にもようやく心から熱心に向き合えるようになり、あの時の恐怖から少しずつ解放されていった。


 「前島、明日休みだからボウリング行こうぜ」


 「おう、いいぞ。白澤も呼ぶか?」


 「いいね。何時集合にする?」


 「普通に10時でいいだろ」


 「だな。でさ、昨日のあれ見たか?」


 「ああ。あれ凄かったよな。特に───」


 友達とも遊べるようになった。家の場所がバレてから、山代は俺が出かけようとするのを阻止しようとしていたからだ。お陰で俺は友達と約束したとしても、山代が行かせてくれないから結局キャンセルしなければならないことが多々あった。

 強引に行こうとしても、どこから持ってきたのか小さいナイフを俺の腹に当ててきて、


 「行ったら、わかるよね?」


 と、脅してきたのだ。休みの日が彼女によって潰されてしまうことに憤りを感じた俺は、山代にいい加減にしろと言ったが、さっき同様ナイフで脅してきた。そこから俺はもう怖くなってしまった。

 

 前にそれがどんどんエスカレートしていったので警察に通報したこともあった。それでも続いたのでもう打てる手がなくなって入ったのを感じた。それが白澤に相談し、山代ファンクラブが動いてくれたお陰で無くなった。これを幸せと言わずして何だろうか。


 帰り道も黒岡と別の部活に入っている白澤と合流して三人で帰れるようになった。毎日が楽しくなった。




 ある日のことだった。

 

 「行ってきます」

 

 そう言っても、既に亡くなっている母からは何も返ってこない。そんな虚しい気持ちを抱きながら、今日も学校に通った。


 「おはよう」


 「おはよう」


 教室に入ればいつものように挨拶をし、それに応じて返事を返してくれる。そうして席についた俺はバックを開け、準備をする。いつもと同じだ。

 そしてホームルームを終え、一時間目の準備をする。


 ピロン♪


 と、その時携帯が鳴った。いつもは気にしないが、この時だけ何故か気になったので携帯を見てみる。


 「っ!?」


 そこにあったのは夥しい着信の数だった。それをしたのはやはりと言うべきか山代だった。

 内容は簡単に言えば、“早く会いたい”、“私たちは付き合ってるんだよね?”などだった。

 と、俺はふと思った。




 ───あれ?いつ連絡先交換したっけ?




 その考えに至った時、俺は久々に感じる恐怖が全身を駆け巡った。

 俺は彼女から連絡先を交換するよう迫られたことは幾度となくあったが、俺はそれだけは駄目だと思い、断固として拒否していた。はずだった。なのに、何で、彼女は知っているんだ?


 俺は怖くなって、急いで山代のアカウントをブロックした。全身から嫌な汗が止まらなかった。

 どこから……?どこから漏れた……?何で知っているんだ……?

 分からないが分からないを呼ぶ。そしてそれは恐怖へと変わる。

 人間というのは分からないものには恐怖する生き物だ。無知とは即ち、自分自身への危機なのである。

 

 「……不味い、どうすれば……」


 俺の頭は逃げることしか考えていなかった。そこに山代と向き合うという考えに至っていなかった。

 そうするという考えに至らなかったのはひとえに自分の心の弱さだった。

 


 この時、山代と向き合っていれば。この後悔が消えることは、きっと永遠にないだろう。

 

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 お陰様で100万PV突破しました!!ありがとうございます!!

 まさかここまで来るとは思わなかった。

 それと、多分だけど、二章は一章よりも短くなるかも。

 

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