第9話

 次の日から、俺はあの日おかしくなった山代から逃げた俺を呪った。


 「新谷くん、おはよう!」


 「……山代か」


 「山代って……私たち付き合ってるんだよ?苗字じゃなくて、名前で呼んで欲しいんだけど?」


 「いや、俺、お前の告白断っただろうが。付き合ってねえよ」


 「何言ってるの?」


 「俺は“ごめんなさい”って、その告白は断ったぞ?」


 クラス内で騒めきが起こった。俺が断ったことがそれほど衝撃だったのだろう。山代からの告白を断るなんざ、普通ならあり得ない。それほどまでに、山代は人気だったらしい。断る利点がない。

 しかしそれが逆に信憑性を増した。自分から断ったなど、普通の人が告白したのならまだそこまでではないが、相手があの山代という、学校内でもかなり人気の人だったが故に、その意外性が相まって広まっていった。しかし、学校内で事実となったのは、俺が山代を振ったのと、“俺が山代を脅した”という二つだった。きっと俺を妬んだというか、信じられなかった奴らがそう思ったのだろう。まあ、俺が振ったというよりかはそっちの方が事実っぽいしな。


 その噂のせいで俺はよく校舎裏とかに呼び出されていた。が、俺はそれを全部無視していた。時には強硬策に出ようとしたのだろう、俺の上履きに中身の入ったコーヒーの缶を開けっぱなしのまま逆さにして入れて、汚していたりしていた。もう完全にいじめみたいなものだった。それでも俺は無視を続けていた。犯人は大体想像できていたし、知り合いに聞いたりして事実確認も行ったので、その上履きと共に先生に言ったりはしたが。その後のことは知らないが、高校の時の先生よりかはいい動きをしていたと上から目線みたいになってしまうが、そう思った。

 

 それで観念したのかは知らないが、俺に対する嫌がらせみたいなものは減っていった。更に、噂について訊かれた時に俺から振ったことを説明し続けたりしたおかげでその噂は徐々に消えていった。

 中には同情してくれる人もいた。少し嬉しかった。


 しかし、噂が消えていくと同時に山代のしつこさは上がっていった。

 事あるごとに俺のとこに付き纏ったりしていて、その中で一番酷かったのは俺をストーカーしていたのだ。おそらくだが、俺の家の場所を知りたかったのだろう。途中気付けたのが幸いした。

 その後も度々跡をつけられかけたが、何とか逃げたり、先生に相談したこともあって難を逃れ続けることができた。はずだった。


 

 「おはよう!新谷くん!」


 「───は?」


 ある日の朝、山代は俺の家の目の前にいた。

 唐突だった。昨日だって撒いたはずだったのに。


 「なんでここがわかった」


 「白澤くんに聞いたんだよ」


 ……あり得ない。そんなはずがない。あいつは、俺の親友で、俺のことを心配してくれていて……

 今日学校で聞いてみよう。それで全てがわかるはずだ。



 俺は嫌々山代と登校した後、白澤の元へと向かった。


 「白澤、俺の家の場所を山代に教えたのか?」


 「は?どういうことだよ」


 「昨日、お前山代に会ったのか?」


 「んな訳ねえだろ。黒岡に聞いてみろ。俺は昨日黒岡とボウリングに行ってたんだからな」


 「そ、そうだったのか。済まないな」


 「……何があったんだ?」


 「実は……」


 俺は朝にあったことを全て話した。と言っても、山代が俺の家に来た、ということだけなのだが。

 




 「……マジか」


 「その時、山代が白澤から住所を聞いたって言ってたからな。俺の家の場所知ってるのお前くらいしかいないし」


 「……いいや、他にも知っている人がいるぞ」


 「……何?」


 「……先生だ」


 「───は?あ、あり得ないだろ」


 「……でも、山代さんが先生を何かと言いくるめていたとしたら」


 「……嘘だろ」


 しかし、先生がそんなことをするのだろうか?俺の担任の先生はそんなことをするような人となりじゃない……山代は一体どうやって……?


 「……どうすればいいんだよ」


 「山代さんに止めるよう言うのは?」


 「そんなの、してないと思うか?」


 「だよな。俺らと山代さんのクラスの奴らも、山代さんがおかしくなったことに気がついている。そいつらの手を借りることができれば……」


 「でも、山代ファンクラブの妨害を受けるだろ?」


 「いいや、逆に手を貸すかも知れないぞ?山代さんとお前を離れさせるために協力してくれとか言えば、喜んで協力してくれるはずだ。現に、今もやっていると聞く。悉くがその直前でミスをしているらしいからお前が気づけなくて当たり前だがな。まあ、あいつらの目標は山代と結ばれると言うことだけだから、問題ないだろ」


 「ならいいんだが……」


 「まあ、もっと山代さんに話しかけろとか、色々山代さんの方に働きかけろとか言っとけば自然と妨害になるだろ」


 「……そうだな。もうこれ以上後ろとかを気にしながら帰るのには疲れてたんだ。少しでも改善するならやってみよう」


 この日から、少しずつ山代が俺から離れるようにするために動き始めたのだった。

 しかし、この後最悪の事件が起きる事を、俺はもちろん、他の奴らも知る由もなかった。



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