第8話
「私と、付き合ってください!!」
高校の時、沙耶香に告白されたのが最初だったと言ったが、あれは嘘だった。実は中学生の時に一度だけ告白されたことがあった。正確には中学二年の時だが。
その時の俺は、なんというか、普通だった。友達がいて、勉強も平均レベルで出来て、運動神経も普通だった。部活を人一倍頑張るだけの、一人の少年だった。
なのに俺は告白を受けた。その相手が山代だというのだから尚更驚いた。
山代との関わりは特になかったはずだ。小学校の時からずっとクラスが一緒だっただけで話したりなどはしなかった。俺のとって山代はただの他人。それ以上でもそれ以下でもなかった。
うちの小学校は少々特殊で、クラス替えが一年ごとではなく、二年ごとなのだ。メンバーが二年間一緒。しかも、一学年の人数が他の所よりも少なく、クラス替えをしたとしてもまた一緒になるケースが当たり前のように存在した。山代がまさにそれだった。
山代と話すことは無かった。まあ、男女で仲良しということ自体かなり珍しいものだったからな。山代から話してくることもなければ、こっちから話しかけることもない。ただクラスが一緒なだけ。そんな関係だったから、俺は中学に上がった時には山代のことは忘れていた。別のクラスだったのも理由の一つだ。
中学生は、思春期真っ盛りな時代と言える。こうして告白を受けるというのは珍しいことではない。現に、うちの学校には入学してから一年で二十回以上告白を受けている女子だっている。その女子はこの学校の女神だと言われているらしいが、俺は興味がなかった。
恋愛、告白は俺とは無縁のものだと、俺は無意識に認識していた。そんなことよりも今は部活に専念したかった。そのほうが楽しかった。だからだろうか、恋愛話などには全くついてこれず、友達から呆れられていたのを覚えている。
誰々が可愛い、誰々が凄くモテている。そんな話を聞くたびにその人の顔を思い出そうとするが、全く思い出せず、友達に連れられて見に行ったこともあるが、どれも同じ顔だなと失礼ながらも思ってしまっていた。
そんな俺とは別で山代は人気だった……らしい。らしいというのはさっきも言ったように俺はそういうのに興味がなかったので、そういう話は全くと言っていいほど知らなかったのだ。今もほとんど覚えていない。
山代は自分が人気だったのを自覚していたらしい。だから俺に告白しても必ず受け入れてくれる、そう信じていたのだろう。
俺のことが好きになった理由は、部活に熱心だったところだと彼女がそう言っていたのだが、今も昔もそれが本当なのか怪しく感じる。
だって、告白してきた時の彼女の目は、明らかに何かを狙っている目だったからだ。
「ごめんなさい」
「───え?」
俺は頭を下げて、その告白を断った。部活が忙しいし頑張りたかったから、今は恋愛にかまけるわけにはいかなかった。
その時の彼女の顔は覚えていない。俺はちゃんと理由を説明した。その上で断った。
彼女の自信満々な顔は脆く崩れ去っていた。
俺はもう一度頭を下げて、その場を去ろうとした時、彼女の声が聞こえた。
「そんな訳がない……そうだよ……私が断られるわけが……そうだよね……?そう、だよね……?新谷、くん?」
彼女の顔は涙などで酷いものになっていたが、そんなことよりも、彼女の様子が変わっていっているのが気になった。
「そうだよ……私の告白が断られる訳がないんだ……私は新谷くんにオッケーを貰った……そうだよ、へへへ、やったあ……私にも彼氏ができたんだあ……」
俺は確かに断ったはずだ。声に出して“ごめんなさい”と、そう言ったはずだ。それが彼女の中で変換されていた。
俺は少しずつおかしくなっていく彼女のことが怖くなった。
「へへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっへへ、やったあ」
俺は怖くなって逃げた。
____________________________________
最後のとこだけで600文字超えてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます