第6話
次の日、俺は沙耶香を家に招き入れていた。
大学生になるまで後少し。このような自由な時間は大学に入っても得られるのだろうが、それでも今よりかは少なくなるだろう。それまではこうして二人の時間を過ごしていたい。
何より、この胸にある微かな不安を彼女といる事で取り除かれるかもしれないと思った。本音は少しでも癒しが欲しいというものだが。
「……大丈夫?」
「え?」
と、俺の膝に座りながらテレビを見ていた彼女が俺の方を向いてそう言ってきた。
何で、と理由を聞いて見れば、
「なんか辛そうな顔をしてたから」
「……そんな顔してたか?」
「多分普通の人だったら分かんないと思う。それくらい些細な変化だったからね。でも、私は分かっちゃうよ?だって新谷の彼女だからね〜♪」
「……そうか」
それを聞いて、やっぱり俺は彼女に敵わないと思った。
彼女になら、俺の弱いところを曝け出してもいいんだと今更ながら気づいた。
「……昨日な、俺の家に幼馴染が来たんだよ」
「幼馴染?」
「ああ。小学から中学までだけどな」
「へえ。幼馴染ね……居たんだ。そういうの、一度も聞いたことなかったけど」
「あんなのを幼馴染とは呼びたくなかったんだよ」
「あんなの?」
「……ああ」
女性に対して“あんなの”とは酷い言い草だとは思っているが、俺はあいつの事をもう女として認識できない。いや、したくない。
「怖かったんだ」
「怖かった?」
「ああ。俺にとって幼馴染は恐怖の塊だからな」
あれは俺にとって恐怖そのものだ。
「ていうか、写真とかないの?」
と、唐突にそんなことを言ってきた。
「ん?ねえよ。見たくなかったから全て消した」
「そんなになの?」
ここで俺は過去に起きたことを話そうか迷った。話せば長くなるのもあるが、そんなことよりも沙耶香に何かしらの恐怖を植え付けてしまうのではないか。そう思ってしまう。
「……ああ」
俺は言うのを止めた。きっと今の俺の顔は酷いことになっているだろう。
「……それって話せないこと?」
「……話せるけど、長くな───」
「じゃあ話して」
彼女は俺の目を真っ直ぐ見てきた。彼女の目を見た時、俺は自分の心の弱さを呪った。そして、彼女のことを信用しきれていなかった自分のことも呪った。
そうだ。目の前の彼女はそんな柔じゃない。俺よりも強い精神力を持つ、尊敬すべき、大好きな人じゃないか。
だったら俺も覚悟を決めよう。そうだった。高校の時に起こったあれよりもマシなものじゃないか。
だったらもうなにも怖くない。
俺の中にあった不安が、彼女のその目を見ることで消えていく。
「結構長くなるから、明日話すよ。もう暗いし」
「じゃあ丁度いいね」
「え?」
「今日、泊まるから」
「───え?」
「ちなみにお義父さんと真穂ちゃんの許可はとってるから」
「イツトッタノ?」
「さっき」
「………沙耶香の両親の許可は?」
「行く時に言ってる。“新谷くんなら大丈夫だろう”って」
「……マジすか」
来た時に気になってはいたが、まさかあの荷物の量は泊まるためのものだったとは……
さっきまで暗い話をしていたはずなのに、一瞬でその空気が吹き飛んでしまった。シリアスが消えた。
「……取り敢えず、寝る時は俺の部屋のベッドを使ってくれ」
「新谷はどこで寝るの?」
「ソファー」
「そんなの駄目だよ!体痛めるだろうし、一緒に寝よ?」
非常に、それはそれは非常にありがたい申し出だが、もしそうしてしまったら理性が保てる自信が───あ。
「これが初めてじゃなかったっけ」
「……そうだよ」
忘れてた。そうだったわ。沙耶香が泊まったの初めてじゃねえじゃん。そしてその時確か………うん。
「……分かった」
「大丈夫だよ。ちゃんと買って来たからね。やることはしっかりやろ?」
「……」
何で男の俺よりも旺盛なんですかね?
でもまだ暗くなったと言っても夜の七時だし、まだ時間はある。
その間に少し冷静になってもらわないと。
……普通立場逆じゃね?
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