二章

第1話


 「………」


 「………」


 「………」


 「………あっ」


 「………沙也加?」


 「──────来た」


 「えっ?」


 俺はすぐに自分のスマホを置いて、彼女の持つスマホを覗いた。

 そこには大学受験の結果が書いてあった。


 ────────合格、と。


 「…………」


 「……沙也加?」


 「っっっっしゃああああ!!!!」


 「うおっ!?」


 突然の大声に俺は思わず尻餅をついてしまった。彼女がこんな大声を出すことなど、あの時───篠崎と対峙した時以来だ。というか、大声を出すこと自体かなり珍しいのだが。


 「取り敢えず、おめでとうな」


 「ええ、ありがとう。で、新谷くんのは?」


 「あ?ああ、ちょっと待ってな」


 そう言って俺は自分のスマホを開いて、合格発表のページに飛ぶ。このロード時間が異常に長く感じている。俺自身かなり勉強したと思うし、多少の自信はある。だが、自信があったとしてもそれとこれとでは話は別だ。

 俺たちは今か今かと待ち構える。そしてページが移り変わり、そこに書いてあった文字を読んだ。


 「ご、合格……」


 「………っ!!!」


 「ォォォォォォォォっしゃあああああああああ!!!!!!!!!!」


 「きゃっ!?」


 俺が突然大声を出したことで、彼女もさっきの俺みたいな反応を見せた。


 「ちょっと!?急に大声はやめてよ!?」


 「あ、ごめん」


 「……まあいいけどさ」


 そう言って俺たちは一息ついた。今あるこの喜びを噛み締めるかの如く、静かな時間が流れる。穏やかな、幸せな時間。


 「これで一緒の大学に行けるな」


 「そうね」


 努力が報われた瞬間を、彼女と共に分かち合えたのはこの上ない喜びだ。あの高校での悲劇を乗り越えた俺たちは、また一歩、新しい道へと進む。

 

 「大学は、穏やかに過ごしたいなぁ」


 「そうね」


 そう思っていると、ピロン、と俺のスマホが鳴った。メールが届いた音だ。俺はそのメールの差出人を見ると、妹からだった。


 『受かった?』


 ただ一言、そう書いてあった。だから俺はこう返した。


 『ああ』


 そして俺はスマホを閉じる。今、俺の家に妹の真穂はいない。何故なら父さんと二人で出掛けているからだ。

 真穂は今年から別の高校に転入することが決まった。理由はやはり、あの高校にいたくないからだろう。なので、今彼女はその転校先の高校で手続きを行なっている。なので、空いた時間でさっきのようなメールを送ってくれたのだろう。

 そして俺たちが通っていた高校だが、今あそこの人気は絶望的に落ちている。故に、真穂見たく転校する生徒が跡を立たないからだ。既に俺たちはあの高校とは関わりがない。卒業式だってもう既に終わってるし。なので、別にあの高校がどうなろうと知ったこっちゃない。


 「真穂ちゃんから?」


 「ああ」


 「どこに転校するの?」


 「ここから近いとこだよ。校風も結構いい感じだった」


 「そっか。なら良かったよ」


 俺たちの暮らしは少しずつ変わりつつある。真穂だって、新天地で頑張ろうとしているのだ。だから俺たちだって大学でも頑張らなくては。


 「大学、楽しみだね?」


 「不安が大きいけどな」


 「でも、高校の時みたいなのは起こらないよ」


 「ああ、そうだな」


 「私たちは私たちのペースで頑張ろうよ」


 「そうだな。あ、今度のデート、どこにしようか?」


 「うーんとね……あ、あそこなんかどうかな?ほら、最近近所に出来たカフェとかさ」


 「……あそこか。まぁいいか」


 「新谷くんはどこが良かったの?」


 「映画館」


 「また?だったらさ───」


 話して、笑って、偶に喧嘩して。そんな当たり前の日々を俺たちは過ごしていた。きっとこの先この関係は変わらないだろう。そして大学を卒業して、立派な社会人になったら、俺たちはまた一歩、さらに踏み出す。

 その時まで、俺たちは二人で歩き続ける。

 

 もう誰にも、邪魔されたりは、しない。




 「あ、そういえばさ」


 「ん?どうした?」


 「昨日かな?何か新谷くんの知り合いって名乗ってた人がいたんだけど」


 「……何でそれを言わない」


 ………何か嫌な予感がする。幸先悪いなぁ。



__________________________________


多分ですが、二章は一章よりも緩いです。

また、この後2話も公開しますので宜しくお願いします。









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