第45話 番外編
「時に沙耶香さん、デート行こ?」
「何で今?」
「息抜き」
「今?」
「そう」
「駄目」
「なんでさ」
「今何月?」
「11月だけど」
「受験」
「……チッ」
いつものように二人で勉強している今日この頃。志望校も2ヶ月前には決まっていて、そこに向けて猛勉強している。ちなみに俺と沙耶香は同じ大学を志望した。学力的に俺たちは同じだからね。実は俺は勉強嫌いなだけであって出来ない訳ではないのである。まぁ高一、高二の間は大量の暇な時間があったから、ゲームしつつ、勉強もしっかりとしていたというわけだ。
今日は夜8時くらいまで俺の家で二人で勉強した後、親父と妹の真穂がいなかったので出前をとって二人で夕飯を食べた。
俺の母さんはといえば、中学を卒業する時期に交通事故で帰らぬ人となった。それが理由かは知らないが、高校に入り無意識にそういうのを求めていたのかもしれない。母親の死去という悲しみから救って欲しいという、単純だけど深い、そんな願いが。
「「ご馳走様でした」」
そして二人で後片付けをして、俺は彼女を家まで送った。帰り道に何が起こるか分からない。ただでさえ彼女は美人と言っても過言ではない。実際俺たちがもう一度付き合いだした頃に何度か彼女は告白を受けている。正直そういう奴らは馬鹿かと思ったし、無神経過ぎて怒りを通り越して呆れてしまった。まぁ、沙耶香がバッサリと心を折っていたのでスッキリしたが。
「ありがとね、送ってくれて」
「別にいいよ。何かあったら怖いし」
「……そうだね。それじゃあ今後もこうしてもらおっかな」
「もちろん」
そして家の前で唇を合わせるだけのキスをして、彼女は戻って行った。俺はそのまま自分の家に戻った。着いた時にはすでに11時を超えていたのだった。
「おはよう」
「おはよ」
次の日の朝。今日は定期試験の丁度一週間前だ。この学校では一週間前になると試験の時間割が発表される。クラス内はピリピリとした空気に包まれていた。しかも受験が近いせいか、皆勉強をしている。まさかの幸太郎も勉強をしてるもんだからこの異常さは計り知れない。
「幸太郎……お前も勉強するんだな」
「お前は俺を何だと思ってんだ。家でも勉強してんだぞ。去年から」
「……えぇ」
「何だその疑う目は」
「何かイメージが無い。お前が勉強するイメージが」
「それ悪口だからな?分かってて言ってんのか?」
「うん」
「ほう、殺す」
「ヤンキーからの脱却」
「───はっ!?」
下らない言い合いをしている間にも時間は過ぎていき、チャイムがなると同時に先生が教室に入ってきた。
「───これで朝のホームルームは終わらせるが、後でこれ、貼っとくからな」
そう言って先生は一枚の紙を見せてきた。それは定期試験の時間割だった。
そして先生はそれを貼ってから教室を後にした。その瞬間クラスの奴らは皆してそこへと向かっていった……怖っ。
「皆殺気立ってんなぁ」
「まぁ、自分の人生の中で一番のピンチを迎えてるからな」
この学校の評判は既に地に落ちている。ご近所さんからの目がとても痛い。俺は被害者……いや、違うか。俺も加害者なのか。俺が勘違いによって沙耶香を傷つけたのは紛れもない事実。彼女もう気にしなくてもいいと言ってくれたけど、それでも俺は俺自身を許せない。
「どうした?」
「いや、何でもない」
俺の様子に気が付いたのか、幸太郎が声をかけてくれた。
「ま、この学校ももうすぐでさよならだ。そう思えば、嬉しいな」
「幸太郎はどこに行くんだ?」
「心理学のとこ」
「マジで?」
「マジ」
まさか幸太郎の志望がそういう系だと思わなかった。彼の印象は勉強しないヤンキーみたいなものだ。というか、着崩しているのでまんまヤンキーに見える。
「お前が心理学ねぇ……ねぇわ」
「うるせ。そんなの俺が一番分かってんだよ」
そして顔を顰めながらこう言った。
「まぁ、俺に似合っていないのは俺が一番よく知っているんだ。でも、興味があるんだよ。何となくだけど」
「へぇ」
「…………何だよ」
「やっぱ似合わねえ」
「……ぶっ殺す」
この後俺たちは戯れていたところを先生に怒られたとさ。
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これで番外編は終わりです。
やっと構想が練られたので、次回から二章に入るつもりです。
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