第44話 番外編
修学旅行は潰れ、体育祭もほとんど意味を成さず、残されたのは文化祭。しかしその文化祭は高三だからという理由で参加できず。
つまり何が言いたいのかというと………………俺の青春どこ行った。
夏休みは終わり、学校では高一と高二は文化祭に浮かれ、学校はもう文化祭一色。そして高三の俺はというと家で勉強をしていた。マジでつまんねぇ。
健康な思春期男子はきっとこの時期は浮かれていること間違いなしだが、生憎俺にはそんなことは無かった。
「あ゛〜」
思わずジジイみたいな声が出てしまった。しかしそれはしょうがないと思う。この世の男子はきっと文化祭になれば自然と女子と距離を詰められるなんて思っている人がほとんどなはずだ。そしてそれは青春と呼ぶべき一つのイベント。彼女持ちは彼女を持っていない奴らを見下し、そして持っていない奴らは下克上を果たすために頑張るのだろう。そして女子たちはそういう奴らをうまく利用して……何か黒いな。
とにかく、何が言いたいのかといえば、羨ましい。一度も体験できなかった文化祭というシチュエーション。欲しい。
「というわけでメイド服着てくれ」
「何で?」
隣にいる沙耶香に俺はそう頼んだが、真顔で断られた。怖い。
「だって文化祭俺ら何もなかったし」
「それとメイド服との因果関係は?」
「文化祭=メイド喫茶」
「新谷くんの文化祭のイメージ偏りすぎじゃない?」
「違うの?」
「違うよ」
この瞬間、俺の中にあった常識が崩れ去った。
「マジか」
「うん。ていうか、文化祭ってなんだと思ってたの?」
「大体のクラスがメイド喫茶やる」
「後は?」
「カップルがキャッキャうふふ」
「後は?」
「後?」
「え?終わり?」
「うん」
そう言うと彼女に引いた目で見られた……解せぬ。
とにかく、俺の中の文化祭はそういう物だ。中学の時は文化祭という者がなかったので、高校では楽しみにしていたのだ。しかしそれは崩れ去り、それといったことができなかった。高一の時はみんな俺を除け者にし、高二の時も同じ感じというか、元クラスメイトに邪魔され、できなかったのだ。
なので、俺には文化祭というのが何なのか全くわからぬまま絶望の進級を果たしたのだ。きっと楽しかったんだろうなぁ……俺を踏み台にした文化祭は。殺意が湧いてきた。
「……あぁ、そっか」
と、突然彼女が何やら納得したと思ったら俺の頭を引き寄せて、そっと抱きしめた。
「そっか……そうだもんね……辛かったね」
子供をあやすかの如く、俺の頭を撫でてきた。心なしか彼女が俺に向ける目は何か可哀想な人を見るような目な気がする。
「俺は可哀想な人ではないと思うのだが。だからその目はよせい」
「よしよし。辛かったね」
「聞けい」
何故だろうか。もう俺は可哀想な子なのだろうか。まあ、今の状況は最高の一言だが、それでも俺がそう言うふうな目で見られるのは納得できない。
なので俺は彼女の抱擁から抜け出し、向かい合ってからこう言った。
「彼氏からのお願いです。着て」
「無理」
何故……別にいいじゃないか。メイド服着ても減るもんなんてないし。
そしたら彼女はこう言った。
「……だってここ君の家だもん」
「え?」
「真穂ちゃんとか今いるじゃない?だから……恥ずかしい」
顔を赤く染めながら言った言葉は俺の心にグサリと刺さった。特に恥じらいながら言った顔が。マジでかわいい。いつもちゃんとしている人がこう顔を赤く染めて恥じらいながらボソッと言うセリフほど素晴らしいものはないと思う。それが自分の彼女なら尚更だ。
「やばい」
「え?」
「かわいい」
「っっっっっっ!?!?!?!?!?」
そう言うと彼女は赤かった顔をさらに赤く染めてから手で顔を隠した。付き合ってからもう半年近く……いや、高一の頃と合わせるともう一年になる頃だが、未だこの思いは収まりそうにない。
「と言うわけでメイド服は今度着てね」
「……受験が終わったらね」
その言葉を聞いた瞬間、俺のやる気は一気に膨れ上がったのだった。
「同棲して早数ヶ月。そろそろいいんじゃない?」
「え?何だっけ?」
「メイド服」
「っっっっっっっっっ!?!??!?」
そう言った瞬間、視界に彼女の拳が見えた途端に俺の意識は途切れたのだった。
大学に入ってしばらくしてから同棲をし始めて半年近く。未だに高三の頃の約束を叶えてもらうことはなかったのだった。
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受験勉強って辛いよね。ソシャゲできないのが。ログボもらうだけとか辛すぎる。
後、前回のやつ分かりづらくてごめんね。
まぁ敢えて分かりづらくしたんだけど。あれは大月の死んだ後のやつです。後は察せ。
追記
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